イマジナリー・ディメンション:V
藍田 進
第1-1話 汽車に揺られて
とある有名な昭和の小説の冒頭よろしく、汽車の窓から見える眺めは海岸線まで続く一面の雪景色が流れていく。長い寝台列車の旅路で時間を潰すために買った本も読み切ってしばらく、昼を過ぎて車内販売の駅弁を食べきってもまだ目的地は遠く。僕こと
空はちらつくものこそないものの曇り空で、風があるのか少し先に見える波打ち際では、岸壁にぶつかりしぶきが高く跳ね上がっている。そういえば地元を出発する前に友達の康平が「太平洋側は波が強くて迫力があるんだ」と言っていたような気もする。きっと窓を開けてみればここまでその荒々しい音も聞こえてくるのかもしれない。
ただ、そうでなくても見てくれからして寒々しい外の、しかも先頭の車両からやや遠い号車とはいえ、汽車の排煙漂う外気にはさらされたくない。これまであまり見る機会のなかった異邦の地への好奇心も、暖かい車内の居心地のよさには無力なのだ。
きっと今向かっている先では、今窓から見えているそれをもっと近くで感じられるのだろう。そう自分で正当化しつつ、窓際のテーブルに放っていた本を仕舞おうと、向かいの座席に置いた大きな旅行鞄へ手を伸ばす。すると個室の天井についた少し鈍い輝きの丸い金属網から、声が聞こえてくる。汽車に乗ってしばらくして、検札をしにきた乗務員のお兄さんの声だ。
「……いくつかの長いトンネルを越えますと、
まだまだ先は長いらしい。本を仕舞い終わった鞄を元に戻すと、僕はまた窓の外へ目線を戻す。すぐに窓の外に見えていた景色はトンネルの暗い壁に遮られ、車内の光が僕の影を残してそれを照らしていた。
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