告白ループ

ネルシア

告白ループ

現代としては手法が古いかもしれない。

いや、古い。

下駄箱にラブレターって、昭和かよ。


ドキドキしながら誰も来ない学校の最上階の階段の隅。

来るか、来ないか。

まずはそこからだ。


コツコツと革靴の音が響いてくる。

それに釣られて、私の鼓動も高鳴る。


「こんな古臭い手法に付き合ったとこに感謝してよね。」


片手にはラブレター。

呆れたと言わんばかりにそれを扇ぐ。


「読んでくれてありがとう・・・。」


「まぁ、まさか貰えるとは思ってなかったんだけどね。

 素直にうれしいよ、ありがとう。」


照れくさくなるが、返事を聞いていない。


「それで・・・?私と付き合ってくれる?」


にこっと笑われ、期待してしまう。


「無理。」


バッサリとはっきりと。

こんなにすがすがしく断れるとむしろすっきりしてしまう。


「ははは、だよねー・・・。」


「・・・。」


「なんて?」


下を向いて頭をかいていたため、その子が何か言っていたかもしれない。


「なんでもない。じゃぁね。」


何事もなかったようにその子が階段を下りていく。


「・・・帰ろ。」


少し呆けていたが、帰らないわけにもいかないので、学校を後にする。


布団の中で今日の流れを再確認する。

何がいけなかったんだろうか。

ラブレターを下駄箱に入れたことか。

私がその子をもっと好きだとアピールしなかったからか。

そもそも私の文章が拙かったからか。

いや、それよりも私のことが好きじゃない?


「あーーーーーー、寝る。」


断られたんだ。

あれこれ考えても仕方がない。

寝よう。


スマホのアラームで目を覚ます。

自室の机の上のラブレターを目にして、違和感を覚える。

あれ、昨日渡さなかったっけ?

スマホに通知が届く。

天気の通知だ。

その日付がおかしいことに気づく。


「いや、これ、今日の日付じゃん・・・。」


やれやれという思いで学校へと登校する。

どうせ何かの間違いだろうと。

好きな子が私の前を歩いている。

話しかけようとも思ったが、勇気が出ない。

いつもの授業を終え、もう帰る時間だ。

はぁと溜息をついて、下駄箱で靴を履き替える。

また好きな子が前を歩いている。


告白しようかとも思ったが、夢のせいでそうもいかない。


「あー、変な一日だった。」


布団に潜り込み、目をつむる。


アラームで起き、日付を確認する。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


同じ日付。

頭がおかしくなりそう。

もういいや、あの子に無理やりキスしてやろ。


朝、同じところで好きな子を見つける。


「ねぇ。」


「な」


言い終わらないうちに唇を雑に奪う。

力ずくで振り払われる。


「どういう神経してんの!?」


「へへ。」


平手打ちも覚悟していたが、それは飛んでこなかった。

幸い、周りに誰もいなかったため、学校で噂にはならなかった。


もうこれで縁が切れたなぁと思い、あの子よりも先に帰る。


「ちょっと!!」


後ろから好きな子の声が聞こえる。


「何?」


「いや、何?じゃないでしょ。今日の・・・その・・・あれはどういうつもり?」


「私の気持ち。」


「それだけ!?!?!?」


今までより一番食いつきがいいな・・・。


「う、うん。」


「ほんっとあんたって人は・・・。」


そう言うと怒りながら去っていった。

なんかやったっけなぁ・・・。


それから毎日無限ループが始まった。

ノートに記録に残しても、それが消えてしまう以上、何をやったか何をやっていないかは自分の記憶力次第なのがつらいところだ。


100回くらいループしたところで、突然キスした時以上の好展開はなかった。


「あーもう!!!」


これで100何回目かの朝。

全てぶちまける。

それしかない。

引かれても、拒絶されても、とにかくこの想い、この気持ちを全てぶちまけてやる。


朝食を食べずに、早く家を出る。

あの子が通る道で待ち伏せる。

20分くらい経ってようやくあの子の姿が見える。

駆け出し、抱き着いて、唇を奪う。

今回は引きはがされないよう、腕を回し、しっかりと組む。


私が満足したところで唇を離す。


「ちょ、急に何!?」


「こんな思いはもう嫌。私、あなたが死ぬほど好き。

 あらゆる手段を使ってあなたをめちゃくちゃにしたいくらいには好き。

 一生手放したくないくらいに好き。

 あなたがこの世にいてくれて本当に良かった。

 それだけで私の世界は明るくて眩しくて、希望に満ち溢れてるんだ。

 それだけはわかってほしかった。

 返事は下校のときね。

 待ってるから。」


すぐに学校のほうへ向き直し、早歩きで学校に向かう。

さすがに恥ずかしくて後ろを振り返る勇気は出なかった。


放課後、顔を合わすのも気まずすぎるため、さっさと帰ることにした。

交通量が多い交差点の歩道橋で嘆く。


「あれで告白成功したらあの子も私に惚れ込んでるっていうか頭おかしいやつじゃん・・・。」



あーーーー、と1人で悶々としていると、突然叫び声が私の脳内を突き刺す。


「ふざけんな!!!!!」


その声の主はあの子だった。

どうにも上手くいかなくなると、この橋に来てしまう私の癖を見抜いたうえでの行動だと理解する。


「あんな恥ずかしいこと言っておいてさ!!!!!

 私の気持ちも考えてよね!!!!!!!!

 私だって・・・私だって・・・・。」


その子が似合わずもじもじする。

あぁ、かわいらしいなぁ!!!!!!!


「私だって何さ?」


「あ、あんたが死ぬほど好き!!

 自分の気持ちに弱腰になってたあんたは嫌いだったけど・・・。

 あんなこと言われてさ・・・嬉しくならない人なんていないよ・・・。」


「えっと、つまり、付き合ってもよろしいということでしょか?」


「何敬語になってんのよ、バカ。」


よろよろとその子へ近づく。


「こんな私だけど、よろしくね。」


「こちらこそ。」


今までにない優しい抱擁を交わす。

分かれ道のところまで、仲良く腕を組んで一緒に帰った。

言葉はいらない。

お互いがいればそれでいい。

それが伝わった。


その夜、幸せに浸りながら夢の世界へと入っていく。


次の日、アラームで目を覚ます。

日付を確認すると、1日進んでいた。


すぐに通知が来る。


「おはよう。」


あの子からの連絡。

すぐさま返す。


「おはよう、今日から一緒に登校しようね。」


「うん。」


という文字と可愛らしいスタンプが送られてくる。


その画面を見て、にやけてしまう。


FIN.

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告白ループ ネルシア @rurine

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