最終章 ②

『蘭ちゃんへ

 本当に久しぶり、金村悠姫です。まあ、とは言っても、私が悠姫であることは、にわかには信じがたいことだと思う。』


手紙は、そんな書き出しで始まっていた。差出人は金村先輩で間違いないみたいだ。だけど、これはいつ書かれたものなのだろうか。そして、それが生前だとしても、『本当に久しぶり』とは、私たちがどのタイミングでこの手紙を読むのかを分かった上での言葉なのだろうか。

 また、何よりも、誰がこの手紙をここまで持ってきたのだろうか。

 考えても考えても、謎は深まるばかりだった。仕方がなく、私は手紙の続きを読む。


『けど、何が何でも蘭ちゃんには信じてもらわれないといけない。私が悠姫だということも、これから綴る文章の内容も。

 まず、とても簡単に、ここ最近にあったことを書くね。

 十日ほど前から昨日まで、私の魂は蘭ちゃんの身体の中に入っていたの。』


 頭の上の疑問符がまた一つ増えた。ここからどんな内容を読めば、この文章を信じられると言うのだろうか。半分呆れた私は、今まで興奮して立ったままだった身体を、一番近くにあった椅子へと下ろした。

 

『......って、なんのこっちゃって話だよね。けど、本当にそう言うしかないの。私の記憶や癖なんかがそのまま、蘭ちゃんの身体の中に宿ったと、そう言うしか。

 もし、この出来事について気になったのなら詩遠に話を聞いてみてほしい。とりあえずこの手紙はその十日間の内に私が書いた手紙だということさえ分かってくれれば、それでいい。

 それよりも、私は蘭ちゃんに伝えないといけない大切なことがあるの。

 

           私の恋は、叶ったよ。』


「!?」


 思わず息を吞んだ。しかしそれは、この手紙を読んでいただけではあり得なかったリアクションだろう。恐る恐る、目線を上げていく。やがて私の視界に映ったのは、白一色に染まったリナリアだった。

 しかしながら、このリナリアに込めた想い、それを知っているのは私だけのはずだ。そもそも、理由はおろか、金村先輩はリナリアがここにあるということすら知らない。しかしそれも当たり前のことで、これは、一応亡くなった先輩を供養する花であるのだから。

 だったら、なんで.........?

 そう自問するも、答えなんて一つしかないことは分かっていた。けれど、どうしても信じられないのだ。私の身体の中に金村先輩の魂が宿っていたなんて非科学的なことが。

 そんなこんなで色々考え込んでいると、不意に私のここ最近の記憶がほとんどなかったことや、今朝見た日記帳の内容を思い出す。


「............信じるしか、ないのかな」


 正直、どんな感情を抱いていいものか分からなかった。喜べばいいのか、憤ればいいのか、悲しめばいいのか、笑えばいいのか、それとも、泣けばいいのか。

 私は考えるのが嫌になり、続きの文章に目を走らせた。

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