第七章 ④

『八月十一日

 今日、金村先輩のお葬式があった。

 急なこと過ぎて、まったく実感がわかなかった。

 けど、周りのみんなは本気で泣いていたから、やっぱりこれは夢なんかじゃないんだろうと、そう思うと、私も人目も気にせずに泣いてしまった。

 特に、環先輩は、私の声が聞こえないほどに泣いていた。励ましてあげようと思ったけど、なんだかうまくいかなかった。それどころか、その涙に拍車をかけてしまったとすら思える。やっぱり私は、金村先輩の代わりにはなれないんだなと思った。金村先輩に『詩遠を頼んだよ』って言われて、分かりましたって言っちゃったけど、やっぱり自信がない。.........でも、私がこんなんじゃ、やっぱり駄目だよね。しっかりしないと』


 ところどころに、何かに濡れてしわになってしまっているところがあった。大きな円形のしわだ。

 私は、私にとっての唯一の後輩で会った蘭ちゃんのそんな文章を読むと、なんとも言えない気持ちになる。そしてそれと同時に、私の中にあった、『私はまだ生きているのではないか』という微かな希望は、完全に崩れ去った。

 少し涙腺が危うくなりながらも、私はその後もページをめくり続けた。

 すると数ページ後、またもやページをめくる手がピタと止まった。


『九月十三日

 今日は、環先輩と一緒に金村先輩へのお供えとして部室に飾る花を買いに行った。遅くなっちゃったからって設置は環先輩一人でやるって言ってくれたけど、花自体は私に選ばせてもらった。

 それで、せっかくだからということで、私は私と、金村先輩の想いを込めた花をチョイスした。......ゆくゆくは、気づいてもらえるといいなぁ』


 なぜここで私の名前が出てくるのか。少し怪訝に思いながらも、綴られた文字を読んでいく。


『一応、忘れっぽい私への戒めとしても、ここに書いておくね。今日買ったリナリアには二つ花言葉があって、一つが『幻想』。けど、私がリナリアに込めた花言葉は、もう一つの方。それは、』


 花言葉。女の子なら一度は調べたことがあるであろう言葉だ。

 そして、偶然にも、私はその花、リナリアの花言葉を知っている。......それが、私の記憶なのか、私の中に残っている深層意識の蘭ちゃんの記憶なのかは定かではないけど、知っているという事実は変わりない。

 そう、そのもう一つの花言葉とは、確か。


「『この恋に気づいて』」

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