第41話勝負は始まる前から決している
第二回戦も変わらず、俺はなんとか勝ちをもぎ取った。次いで三回戦目も。こんなところで変に運を使わないで欲しいと思い、なんなら負けてもいいかなーとか思いつつ低いモチベーションでじゃんけんに臨んでいたのだが、物欲センサーというものは本当にあるらしく、俺はものすごく意気込んでじゃんけんに臨んでくるオタクたちを次々と蹴散らした。
その度に目の前のオタクが発狂するので、めんどくせぇと思いつつも、じゃんけんで勝利を収めていった。
ちょうど俺が五回目のじゃんけん勝負に勝利し、その報告を篠原にしに行こうとした時だった。ちょうどタイミングよく、篠原も俺の方へ向かって歩いてきていた。
「どう、新藤くん。ちゃんと勝ってる?」
「あぁ、お前は?」
「もちろん。負けるはずがないじゃない」
おぉ、ものすごい自信だ。ことじゃんけんに至ってここまで自信満々になれるやつも、そうはいないだろう。三分の一の確立を引くことなど、篠原にとっては造作もないってことか。こいつはつくづくすごいなと謎に感心していると、篠原の近くにオタクが寄ってきた。
ここで言うオタクとは、今一緒にいるオタクくんではなく、俺たちとは全くなんの面識もない、ここに沢山いる内の一人であるオタクのことだ。
メガネをかけ、美少女Tシャツに身を包んだオタクは、篠原に。
「あ、あの〜」と挙動不振気味に声をかける。いったい何用だろうと思って篠原に声をかけたオタクを見ていると、そのオタクは篠原の胸元に目線を向け。
「さっきその〜『負けてくれたら胸を……』って……」
後半の方はごにょごにょと言ってうまく聞き取れなかったが、だいたい察した。多分篠原は試合が始まる前、対戦相手に「自分の胸を揉ませてやるからわざと負けろ」的な言葉を囁いたのだろう。なるほど。だからこんなに自信満々だったのか。うぶなオタクを騙して勝利をもぎ取るなんて……。
なんと言うか、俺の感心を返して欲しい。本当にこいつは、勝利に貪欲と言うか、せこいと言うか……。俺は呆れて篠原を見ていると、俺の視線に気がついた篠原はむすっと怒ったような顔をしてオタクに言い返す。
「あんなのは嘘よ。そんなのもわからないの?」
「え? で、でも……」
「でもじゃないわよ。いい? 勝負っていうのはね、始まった時には既に決着がついているものなの。私は始まる前にあなたを誘惑して、あなたはそれに乗っかった。その時点であなたは負けてるの。もし、あたなが私の裏をかくことが出来れば、あなたは確実に勝ててたじゃない。勝負が終わった後にぐちぐち文句を言ってくるなんて、往生際が悪いわよ」
ものすごい言い分でオタクに反撃する篠原。でも確かに、篠原の言っていることは筋が通ってる気がする。別にルールで事前にやり取りをすることは禁じられてない。本当にフィギュアが欲しいのなら、金で相手を買収するなり、いくらでも勝つ方法はあるのだ。
それでも相手は納得いかない様子だ。でも、ここで言い返す度胸は持ち合わせていないのか、不服な様子でどこかへ消えていった。
「お前、刺されても文句言えねーぞ……」
隣にいる残忍女にそう言うと、篠原はふっと笑う。
「平気よ。私が刺されても、代わりにあなたが亡くなるもの」
「なんだそれ!? なんで俺がお前の代わりに死ぬんだよ」
「知らないの? 恋愛部に入る時、『私に命を預けます』って契約したじゃない」
「なにその悪魔の契約……。お前もしかして悪魔だったの? そうだよね? 今までの言動とか見てたら、なんか色々合点がいくもん」
「はぁ……。悪魔なんて、私とは一番程遠い存在なのに」
「いやいや、結構あってると思うぞ。その卑怯で腐りきった性根とか、悪魔そのものだ」
「じゃああなたの家が永沢君になる災いを授けとくわね」
「おいやめろ。なんだ家が永沢くんって。完全に放火する気じゃねぇか」
そんなバカなやり取りをしていると、いよいよ最後の試合が始まるアナウンスが流れる。
「それじゃあね。健闘を祈るわ」
言うと、篠原はAブロックの方へと歩いていった。まあここまできたら、ほぼ確実にフィギュアは手に入るもんだと思っているが、それでも気を緩めず俺は試合に挑む。
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