第13話お嬢様もどき

 直人の恋愛が成就してから数日。俺と篠原は特に何をするでもなく、部室でだらだらと各々の趣味に没頭していた。

 俺はゲームをやり、篠原は文庫本を読んでいる。そこで思ったが、依頼者がいないのになんで俺はこんなところで、こいつと二人っきりでゲームしてるんだ?

 いやまあいやって訳じゃないけど、こいつあんまり話しかけてこないから、妙に気まずいと言うか……。

 俺は目の前で文庫本に集中している篠原に、なんとなく気になっている事を質問してみる。

「お前ってさ、どこかの財閥の娘だったりお嬢様だったりするの?」

 突然突拍子もない事を聞いてみると、篠原はフッと笑みをこぼすと。

「あなた、いつもそんな気持ちの悪い妄想をしているの? あまり口外しない方がいいわよ」

 全く俺の質問には答えず俺のことをバカにしたようにディスると、また文庫本に視線を戻した。つくづくこいつはムカつくな。

「そうじゃねぇよ。ただ、なんつーの……。お前さ、なんか語尾が〜かしらとかお嬢様っぽい喋り方じゃん。だからそうなのかなって」

 俺は自分の誤解を解きながらも考えを述べると。

「残念ながら、私はお嬢様ではないの」

 篠原は少し申し訳なさそうな顔をしてくる。

「別に残念じゃねぇよ。てか、だったらなんでそんな喋り方してんだ?」

 尚のこと疑問に思い質問すると、篠原はよくわからないことを喋り出す。

「それはね、お嬢様っぽい喋り方をすれば、ぼっちでも許されるじゃない」

 ……? 篠原の謎理論がよく理解できず、首を傾げてみる。そんな俺を見た篠原は、ため息交じりに説明する。

「つまりね、お嬢様っていうのは誰からも理解されないものなのよ。身分の違いで平民から理解されず、ひとりぼっちに……。つまり私は、孤独ではなく孤高ということね」

 何を言っているのか理解できなかったが、こいつが友達のいないアホだということだけは分かった。俺は以前、いや、俺だけではないのだが、同級生のこいつに対する評価はお嬢様だとか気高いとか、なんというかそういう近寄りがたいイメージがあったのだが、実際こいつは単なるバカなのではないかと最近思い始めてきた。

 喋り方や見てくれで騙されそうになるが、実際この前の作戦もかなり適当なものだったし、よく見れば文庫本じゃなくて漫画だし、もしかして……。 

 途端に幸先が不安になり、ジトーと訝しむ眼差しを篠原に向けると、篠原は頬を赤らめ、守るように両手でギュッと自分を抱きしめる。

「な、何かしらそのいやらしい目つき。目の前で堂々と視姦するなんて、飢えてるのかしら?」

「別にそんな目で見てねーよ! 自意識過剰なんじゃねーの?」

「残念ながら、私の自意識は正常よ。あなたの脳みそと違ってね」

「おい、俺の脳は異常だって言いたいのか?」

「えぇ、違うの?」

「あのなぁ。この前から思ってたんだが、お前は……」

「あの〜」

 俺と篠原が言い合い寸前のところで、部室の扉が開かれた。そしてそこから、二足歩行の焼き豚……ではなく、肌が焦げ茶色のぽっちゃりした金髪の女子生徒が入ってきた。

「恋愛部って書いてあったから来たんだけど。恋愛の相談とか乗ってくれるの?」

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