第8話ハイリスクローリターン
「新藤くん、髪を掻き上げてもらえるかしら?」
唐突に言われ、俺は篠原に言われた通り前髪をあげる。すると篠原は、容器から大量のワックスをぐちゃりと取り出すと、べちゃんと俺の頭につけてきた。
「おい! いきなり何すんだよ」
「何って、あなたの髪の毛をセットするのよ。ちょっとだけ多かったかしら……」
「ちょっとどころじゃねぇよ! 重量感すげーぞ」
「いちいちうるさい男ね。何事も少ないより多い方がいいに決まってるじゃない」
「それにしても限度があるだろ……」
嫌がらせとも思える行為を篠原にされ激昂するが、こいつは思ったよりも頑固と言うか屁理屈ばっかと言うか……。言い返すのもめんどくさくなった俺は、頭についた大量のワックスを髪の毛に馴染ませて、オールバックの形にする。
「あとはこれを掛ければ」
ネチョネチョに仕上がったオールバックにサングラス。自分の顔を見ることはできないが、篠原と直人が笑いを堪えているところを見るに、似合ってはないのだろう。
ひとしきり笑いを堪えていた篠原は、俺の顔に見慣れたのか笑うのをやめて作戦の概要を説明する。
「じゃあここからはあなたたちが取るべき行動を伝えるわね。昨日新藤くんが帰ったあと、私は軽く柏崎さんのことを調べたの。まず彼女は、吹奏楽部に所属している。だいたい部活動が終わる時間は六時ごろだから、この時期だと日はほとんど沈んでいるわ。さらに近くのアパートに住んでいて、アパートの帰り道にはあまり人気のない路地を通る……。つまり、狙うならここよ」
狙うって、マジで犯罪を計画してるみたいだな。もし通報とかされたらどうしよう。そうなった場合、この女は責任を取ってくれるのだろうか。取ってくれる訳ないよな。
昨日今日と少ししか篠原とは話していないが、ちょっとだけこいつの性格は分かった気がする。思えばこの作戦、リスクあるの俺だけじゃね? しかも作戦が成功したとしても、俺にメリットはないし……。
ものすごい不憫な立ち位置にいる気がしてならない。まあでも今更やめるとか言いずらいし、うまくいけばいいだけだ。
俺は覚悟を決めると、作戦を実行する路地まで三人で赴いた。
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