第4話篠原美佳子

「…………だれ?」

「おい! いま運命の相手と……! 的な流れだったろ。なんで知らねーんだよ」

「え? いきなり何を言っているのこの男。ものすごく怖いのだけど……」

「あ、あのなぁ……」

 恋愛部と書かれた教室の中にいたのは、うちのクラスにいる篠原美佳子だった。こいつの説明を簡潔にすると、超美人。あと性格が悪いらしい。ほかのことは知らない。艶やかで長い黒髪に、桜の髪飾りを左耳の上につけてるのが特徴的。

 なぜ俺が驚いたかと言うと、篠原ほどの美人がこんなところで意味のわからない部活動を設立していたからだ。

 何やってんのコイツ? つーかそれよりも……。

「お前、俺と同じクラスだろ。なんでクラスメイトこと知らねーんだよ」

「同じクラスだったの? ごめんなさい。あまりにも影が薄くて」

「謝っているようで失礼の上乗せだな……」

 やっぱり性格が悪いのは本当のことらしい。俺は篠原から目を離すと、中を見渡す。中には木製の机と、それを挟むように置かれた白いソファーが二つあり、その周りを無数の本が囲っている。

 なんと言うか、この狭い空間はとても秘密基地みたいだ。年甲斐もなく心が踊る。

 ポケーと教室の内装に見とれていると、篠原は本に目を通しながら。

「とりあえず座ったら?」

 ソファーに座るよう促してくるので、俺は従って篠原の対面に座る。俺が前に座ると、篠原はパタンと呼んでいた書籍を閉じて机に置く。

「とりあえず、名前を伺っても?」

 篠原に名前を尋ねられ、緊張する。普段あまり女子と話さないせいか、篠原みたいな可愛い女子と話すのは、どうしても緊張してしまう。俺は絶対に噛まないよう心を落ち着かせて、名前を名乗る。

「新藤刀鬼」

 名前を名乗ると、篠原は興味なさそうにして「そう……」とだけ呟き。

「それで新藤くん。あなたは誰が好きなの?」

 直球で訪ねてくる。俺はいきなりの質問に困惑し、この部活動のことについて質問ぜめをする。

「『誰が好き』って、なんでそんなことを聞くんだよ? てか、ここはなんだよ? お前はここで何してんだよ?」

 質問に質問攻めで返すと、篠原は淡々と説明し出す。

「ここは人の恋を叶える部活よ。それ以上でもそれ以下でもない」

 簡潔な説明。な、なるほど。すげー部活だな。意味わからん。でも、だったら今の俺に打って付けかもしれない。

 俺は今抱える状況の説明を篠原にする。俺が今抱えている問題を聞いた篠原は、ふっと笑みを浮かべる。

「なるほど。つまりあなたは、彼女もいない分際で”彼女を作らせてやる”とほざいてしまったわけね」

「お前口悪いな。まあそうだけど……」

 俺の話を聞くと、篠原はニヤと口角を上げる。

「そのお友達は今どこにいるの?」

「えっと、もう帰ったんじゃねえかな……」

「そう……。なら明日の放課後、そのお友達と一緒にこの部室へ来なさい」

 篠原から上から目線で命令された俺は、わかったとだけ言い残して部室を後にした。任せて大丈夫なのだろうか。でも、他に手段もないし、どうせダメで元々なのだから別にいいか。

 それより、篠原と二人で話せるなんて。可愛い女子生徒と話せたことで、俺の気分は勝手に高まっていた。

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