第50話町の裏切り

時は少し戻りアランが階段を下りレイミヤが地上に戻ったとき。






レイミヤは階段に蓋がされると老人に案内された避難者の町を探索を始めた。


辺りを見渡しても今にも飢えて倒れそうな人、細くなった腕や脚、瓦礫にもたれかかる人の中には生まれて間もない赤子を抱いている人もいた。


街を歩いているとひときわ人が集まる場所にたどり着いた。


そこは昔教会が建っていたであろう場所で今では面影が残らない残骸の山でかろうじて中には人が入れそうな空間ができていた。


建物の外には一列の列ができていて、建物の周りには中を覗き込む人もいた。


列を作っている人は、老若男女問わず並んでいて何かを待っている様子だった。


レイミヤは建物に近づき中を覗き込んでみると、人が地面に直接横に寝ている人がいて、その人たちの体のいたるところに汚れていた包帯がまかれていた。


列を作っている人を見返してみると、全員が体のどこかに傷を負っていた。


建物の中では3人の人が寝ている人の包帯を取り換えていたり、体を濡れた布で拭いていた。




「まるで、地獄。」




レイミヤは目の前に広がる悲惨な光景を見て一言そっとつぶやいた。


レイミヤは居ても立っても居られなくなり教会だったものの扉を開けて中に入っていった。


中に入ると、体を拭いていた一人がレイミヤに近づいてきた。




「外の列に並んで待っていてください。皆そうしているんですから。」




そう告げるとレイミヤは食い気味に話した。




「私も手伝います。私は別の町で教会に所属していました。多少なりとも傷を癒すことができます。


今の現状を観る限り、この環境での治療は全くと言っていいほど意味がありません。下手をしたら余計に悪化する恐れがあります。お願いです。私も手伝いをさせてください!」




治療をしていた女性はレイミヤの言葉を聞いてどこか助かったと安心した様子を見せた。




「分かりました。案内をするので早速治療をお願いします。」




そこからは列がどんどん前へと進み始めた。


レイミヤが次々に治癒魔法を使い傷を負っていた人たちを癒していったのだ。




「悪魔がこんな善行を行うとはこれじゃあまるで天使だね。」




ブエルはレイミヤの行動を見ながらそうつぶやいた。


癒された人たちは傷が治ると感謝を述べてその場を去って行った。


次の患者と入れ替わるために。


しかし、癒された人たちの顔にはどこか申し訳なさそうな様子が見えたがレイミヤは少し疑問に思いながらもあまり考えず、人を癒していった。


気づけば列は無くなり横になっていた人たちも今では両手に収まる程度の人しかいなくなっていた。


治療が終わるころには、太陽は傾き空はオレンジ色に光っていた。




「この度はありがとうございます。あなたがいたおかげでたくさんの命が救われまして。よろしければお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」




レイミヤの元に治療していた3人が集まりその中で一人だけ服装の違う人がレイミヤに感謝の言葉を送った。




「いえ、人を見捨てることは教えに背くことなので感謝なんて必要ありません。むしろ当然のことをしただけです。そして、私の名前はレイミヤ。レイミヤ・シュリノワールと言います。」




レイミヤが名前を言うと3人はお互いの顔見て3人の顔が青ざめた。




「レイミヤさん。今すぐここから逃げて。あの人があなたを狙ってる。」




慌てた様子でレイミヤの背中を押して裏口に歩かせようとするがレイミヤは歩くのを止めた。




「ちょっと待ってください。どうゆうことですか!?」




レイミヤが訳を聞こうとするといきなり教会の扉が開いた。




「ここにいましたか、外の人よ。探しましたぞ。」




現われたのはレイミヤたちを連れてきた老人だった。


老人の横には階段の蓋の開閉をしていた男2人が付き人できていた。




「聞けば怪我人をすべて治療してくれたとか。まことに感謝しています。」




老人は片膝をつき頭を下げて感謝した。




「頭を上げてください。当然のことをしただけですから。アランはどこにいるんですか?姿が見えないようですけど。」




老人と一緒にいたはずのアランの姿が見えないので老人に聞いてみると、




「大丈夫。彼はまだ生きてますよ。まだね。」




老人は不敵な笑みでそう言うと、連れの男2人をレイミヤの元に向かわした。




「まだとはいったいどうゆうことですか?それに、このお二方は?」




レイミヤは老人の言葉と近づいてくる男2人に戸惑っていた。




「捕まえろ。」




老人が言うと男2人はレイミヤのそれぞれ片方ずつ掴んだ。




「やめてください。この手を離してください。」




レイミヤは男の手を振りほどくために必死に抵抗するも力の差で振りほどくことはできなかった。




「我に害為す敵に光を、ランペジャーレ」




レイミヤが唱えると目の前に閃光がひかり、男たちはレイミヤから手を離した。


そのすきを逃さずレイミヤはひとまず教会から逃げだした。


閃光が消えたのはレイミヤが教会から出る瞬間だった。




「何をしている、早くあの女を捕まえろ!!」




老人が言うと2人の男たちはレイミヤの後を追いかけ始めた。


レイミヤは一人逃げているが逃げる先に瓦礫が道をふさいでいて教会からあまり離れられないでいた。


男たちは確実にレイミヤに迫っていた。


レイミヤは何とか逃げていたがとうとう追い込まれてしまった。




「嬢ちゃん、追いかけっこもお終いだ。大人しく捕まるんだな。そうすればあのガキみたいにならないで済むぞ。」




男の話を聞いてレイミヤの背筋に何かが走り額から頬に汗が流れた。




「アランに何かしたのですか!?」




男たちは気色悪い笑みを浮かべながらレイミヤに1っ歩1っ歩迫ってきていた。




「ああ、今あのガキは暗い地面の中で1人閉じ込められているのさ。」




「嬢ちゃんも同じ目にあいたくないだろ?」




「それにしても、これまで見てきた中で1地番の上玉だな。」




「ああ、そうだな。あの方に渡す前に俺たちで遊ぶか?」




「そいつは良い考えだ。よし、そうしよう。」




男たちの手がレイミヤに届こうとした瞬間、1本の矢が一人の男の手に刺さった。


男は悲鳴を上げ手を抑えてうずくまった。


その場にいた全員何が起きたのかわからなかった。




「そこの人、こっちだ。」




レイミヤの横にある壁の中から男の子の声が聞こえてきた。


レイミヤが声のする方に顔を向けると、壁が回転し、一人の少年が姿を現した。




「このガキ!よくもやってくれたな!!」




矢が当たってない男が鬼の形相で少年に近づくと少年は躊躇なく男の脚めがけて矢を放った。


矢は見事、脚に命中して男は倒れて足を押さえた。


先ほどまでの様子とは打って変わって男たちは苦痛の声を上げて倒れていた。




「早くこっちに来るんだ、そこの人!」




少年はレイミヤに向けて手を伸ばしてきた。




「レイミヤ、そいつのとこに行くんじゃないよ!」




レイミヤが少年のところに向かおうとした瞬間ブエルがそれを止めた。




「なぜです?あの子は私を助けようとしてくれているんですよ?」




止めに入ったブエルをレイミヤは不審に思った。




「いいから、そいつのおかげで男たちは立てない。そいつについていくんじゃなく来た道を戻って逃げなさい!!」




「何を、ぼさっとしてるの?早くこっちに来るんだレイミヤ。」




レイミヤが迷っているすきに男たちは立ち上がろうとしていた。


レイミヤが迷っていると少年が近くに寄ってきてレイミヤの手を引っ張った。


連れられるがままレイミヤは少年について行った。


レイミヤが壁の中に入ると壁は回転して道を閉ざした。


男たちは態勢を治し、壁を回転させようとするが押してもびくともしなかった。




「ここならもう大丈夫。走ってのどが渇いたでしょ、これを飲んで落ち着いて。」




少年は水の入ったコップをレイミヤに渡した。




「ありがとうございます。」




レイミヤは渡された水をゆっくり飲みほした。


少年は1人奥に進んでいくと壁で姿が見えなくなった。


レイミヤはコップを置いて少年の後を追うと部屋にたどり着いたがそこには誰の姿も見えなかった。




「あの、いったいどこにいるんですか?」




「レイミヤ後ろ!!」




ブエルがレイミヤに何かを知らせるために呼ぶがすでに遅かった。


突然レイミヤの後ろから手が伸び口元に布が押し付けられた。


レイミヤが布を剝がそうとするが両腕を何かに抑えつけられて動かせずにいた。


布に浸けられた臭いを嗅いでレイミヤは眠ってしまった。




「おやすみ、レイミヤ。」




そう告げたのは、レイミヤを助けた少年だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る