第46話背後に立つ者

ラウロスはドゥルーを乗せたまま意気揚々とあらんとレイミヤがいる宿に戻った。


その足取りはとても軽かった。


レイミヤはベッドで寝ていた。


何事もなかったかのようにベッドにうずくまりながら。


アランは一人部屋を時折歩いて見回り何も異常がないか調べていた。


部屋は静かに静まり返り普段は聞き逃すような小さな音でも聞こえるほどに静かだった。


コンコン


突然窓が叩かれる音がした。


アランに突如として緊張が走った。


アランは恐る恐る音の下窓に向かった。


出来るだけ物音を立てないように慎重に。


アランの片手にはナイフが握られていた。


部屋の中では片手剣を振ると物にぶつかりうまく触れないと判断したためナイフを握った。


静かにだが確実に窓に近づくとアランは外からは見えないように壁に背を当て窓の鍵を開けた。


アランは窓を軽く押すと窓は外に向かってゆっくりと開いた。


窓が開いた後何も姿を現さず何の音もしなかった。


アランはゆっくり外を確認した。


しかし、上下左右どこを見ても何もいなかった。


アランは何度も外を見渡したが何の姿も見れなかった。


アランが外を見ている中開いた天井から何かが下りてきた。


降りてくるものは一切音を立てることなく床に折りアランい近づき始めた。


近づく者にアランは気づかなかった。


何者かがアランに向かって手を伸ばし始めた。


「よっ、小僧!」


伸びた手が言葉と同時にアランの肩を二回たたいた。


肩をたたかれたアランは声を上げずに持っていたナイフを勢いよく後ろに振った。


振るわれたナイフは何者かに当たったが、傷を負わせることはなかった。


ナイフは何者かに当たると当たったそばから溶け始めた。


アランは人間ではない何者かの正体を確認すると


「おいおい、いきなりそんなもの振り回すんじゃねえよ。危ないだろ、人間なら。」


何者かの正体はフラウロスだった。


「なんだ、お前か。」


アランはフラウロスだと確認すると溶けたナイフを手放した。


アランからは緊張が抜けた。


溶けたナイフは床に落ちるとナイフの刃の部分に当たる床が少し焦げた。


「謝罪は無いのかよ、人間なら相当の怪我になっていたかもしれなかったんだぞ。」


アランはフラウロスの話していることに耳を向けずに開いた窓を閉めた。


「お前がやったのか?」


アランはため息交じりにフラウロスに聞いた。


「ああ、そうだ。ビビったろ?」


フラウロスはアランの反応見て楽しそうに答えた。


「全く、しょうもないことをするな。それに、その人間はどうした?まさか殺したのか!?」


アランはフラウロスが担いでいるドゥルーを見ると声を荒げて問い詰めた。


「ああ、こいつか。こいつは生きてるよ。何とかだけどな。そんなことより、俺様はやはり天才だ。」


フラウロスはドゥルーのことを後回しにしてドゥルーに当てた炎の玉のことについて話そうとしたが、


「お前の話なんか聞いてる暇はない、今すぐにその人を下ろせ。俺はレイミヤを起こしてくる。」


アランはまたフラウロスの話を聞かずにその場を離れた。


フラウロスは話を聞いてもらえず心なしか不満そうな顔をした。


「レイミヤ、レイミヤ!起きてくれレイミヤ!」


アランは寝ているレイミヤのベッドに付くとレイミヤの肩を揺らして起こした。


アランに起こされたレイミヤは目をつぶったまま身を起こした。


「なんですか?おなかはすいてませんよ。」


レイミヤは体を前後左右にフラウfらと揺らしながら息を多めな声で寝ぼけながらアランに答えた。


「レイミヤ、目を覚ましてくれ。怪我人がいるんだ。レイミヤの力で直してくれないか?」


起きたレイミヤの目を覚ますためにさらにアランはレイミヤの体を揺らした。


アランはレイミヤを起こすのに焦っていた。


ドゥルーの容態を見て素人でも危険だと感じたからだ。


レイミヤはアランのその言葉を聞くとすぐさま目を覚ました。


「分かりました。すぐに行きます。」


アランの様子を見てレイミヤも緊急性を感じ取った。


レイミヤはベッドから降り、二人はフラウロスと、ドゥルーのいる部屋へと向かった。


二人は部屋に付くとフラウロスは壁に寄りかかりながら立ち尽くし、ドゥルーは床に転がっていた。


ドゥルーはフラウロスに運ばれてくる前と違く呼吸が浅くなっていた。


レイミヤはドゥルーの様子を見て両手で口を覆った。


ドゥルーの様子を見て大きく息を吸い込んだ。


それでも、レイミヤは急いでドゥルーの横に座り焼けたドゥルーの体に手を置いた。


「かの者の傷を癒したまへ、クルーラ。」


ドゥルーの怪我は見る見るうちに癒えていった。


焼けた肌は元の状態に戻り、まるで何事もなかったかのように傷が治った。


ドゥルーの息は元に戻った。


しかし、ドゥルーは目を覚まさなかった。


「どうやら、気絶しているみたいだね。」


ブエルがレイミヤの目を借りドゥルーの容態を見てレイミヤに教えた。


その声はレイミヤにしか聞こえなかった。


傷が治ったのに目を覚まさないドゥルーを見て、アランは不安が顔に出ながらレイミヤを見ていた。


レイミヤはアランが見ていることに気づくと、ブエルから聞いたことをアランに教えた。


「大丈夫ですよ、アランさん。気絶しているだけみたいです。傷も完治しましたし、今は目を覚ますの待ちましょう。」


レイミヤはアランを落ち着かせるためにやさしい声でアランに言った。


「そうか、ならよかったよ。」


アランはレイミヤの言葉を聞くと大きく息を吐いて安堵した。


肩の力が抜けしばらくその場で座っていた。


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