第10話森の秩序を守るもの
「この森の秩序を乱すやつは私たちの牙で葬り去ってやる。」
彼の周りには森から集った蛇たちが群れを成してアラン達を目指していた。
「ご主人様、もう朝ですよ。起きてください。フラウロス様でさえもう起きているのですよ。」
太陽が昇り辺りが明るくなるとハーゲンティがアランを起こす。
起きていたフラウロスは木の上で寝そべっていた。
なかなか起きないアランだが、ハーゲンティがしつこく起こすので、眠そうな顔をしながらアランが起きた。
「わかった、もう起きるから。」
アランは次の瞬間一瞬で目を覚ました。
「これはどういうことだハーゲンティ!」
アランが起きると周りにはアランを睨みつける蛇で地面を覆いつくしていた。
目覚めたアランがあたりを見渡して移動できるか確認するが立ち上がるしかなかった。
「蛇ですね。」
ハーゲンティはさも当たり前のように答えた。
「何落ち着いてんだよ、なんでこんなに蛇がいるんだよ!?」
すると森の奥から小枝を下りながら何かがゆっくり近づいてくるのが分かった。
ーパキッ、パキッー
次第にその音は大きくなっていった。
現れたその姿は、下半身が蛇、上半身が人間、左腕は無く右腕からは蛇が三匹生えていた。
「お前らか、この森の秩序を乱す輩は。」
蛇は一斉に威嚇し始めた。
アランと二人の悪魔は現れた蛇人間の方を向く。
「これはこれは、アンドロマリウス様お久しぶりです。」
そういうと、ハーゲンティはアンドロマリウスにお辞儀をした。
「ハーゲンティまさかこいつも悪魔なのか?」
アランは目線だけを動かしてハーゲンティに聞いた。
「ええ、あの人も72柱の悪魔の内のお一人です。ですがご安心してください、彼は争いを好みません。」
添えを聞いたアランはアンドロマリウスに話し合いを申し込んだ。
「ええっと、アンドロマリウスさん?もしよかったら話し合いをしませんか?」
するとアランを取り囲んでいた蛇たちはアンドロマリウスの方へと向きを変え、森へと帰っていった。
アンドロマリウスはアランの元へと近づき話し合いに応じた。
フラウロスは相変わらず木の上で寝そべって上から様子を見ていて、
アランとアンドロマリウスは燃え尽きた焚火の後の横で向かい合うように座り、
ハーゲンティはアランの横に座った。
「あのアンドロマリウスさん?」
第一声はアランからだった。
アランがかしこまった様子で案アドロマリウスに話しかける。
アンドロマリウスは勢いよくこちらに顔を向けると
「そうかしこまるな坊主、私は昔ロマリスと呼ばれていた。坊主もそう呼ぶといい。」
アンドロマリウスは見た目とは裏腹に優しい声で話し始めた。
「久しぶりだなハーゲンティ、それとフラウロス様」
どういうとアンドロマリウスは座りながら二人に会釈した。
「アンドロマリウスはどうやってその体を手に入れたんだ?」
早速アランはアンドロマリウスが人の体を持っていることについて尋ねた。
すると、アンドロマリウスは悲しげな顔をした。
「あれは三年前のことだ、私がまだこの身に着けているネックレスが祠に封印されていた時だった。
ある老人が、私を見つけたのだ。名はジャックと言ってた。
ジャックはこの森に住み森の管理をしているものだった。
私は最初、自分の体欲しさにジャックに嘘をついて体を手に入れようとしたが、ジャックは私との契約を結ばなかった。それでも体が欲しかった私は、ジャックが本当に望むものを探すべく私を身に着けてもらって短い人生を見てきた。ジャックはこの森を本当に愛していた。この森もまたジャックを愛しているようだった。
だが老い先短い老人だったジャックの様態が急に悪くなってしまった。それは突然の出来事だった。
ジャックは死ぬ間際に私にこう言った「お前の願いであるわしの体をくれてやる、こんな体でよければだがな。わしからの願いはお前さんに好きなように生きてもらうことだ。」そう言っていたよ。ジャックが死ぬ瞬間私は体をもらい今の姿になった。その後、私はジャックに変わりこの森を守ってきた秩序を乱すものを一人も逃がさずに。」
アンドロマリウスが目覚めてからの話を聞いたアランは感動していた。
悪魔の中にはこんなやつもいるのだと。
「では坊主よ、先ほどハーゲンティが言った通り、私は争いを好まないんだよ。だから話し合いで解決できるのであればそれはありがたいことなのだ。それでなんで坊主はこの森の秩序を乱すのだ?」
優しい雰囲気だったアンドロマリウスの声は、少しばかり低くなった。
アランには、自分が森の秩序を乱したとは自覚がなかった。
「俺が森の秩序を乱すだって?そんなことしているつもりはないんだけど。」
アランはアンドロマリウスの言っていることが分からなった。
「わからないか、なら教えよう。坊主はこの森に入って無数の命を奪ってきた。少しばかりなら私も目をつぶっていたが、坊主は奪いすぎてしまった。だからこうして私自身がやってきたわけだ。」
アンドロマリウスの雰囲気がどんどん悪くなっていくのが分かった。
「ロマリス、ちょっと待ってくれ、仕方のないことだったんだ。俺たちは町を目指していたんだが迷ってしまって、持ってきた食料が尽きてそれで仕方なく動物たちを食べたんだ。」
アランは、アンドロマリウスに自分たちがなぜこの森にいるのかなぜ旅をしているのかを話した。
「俺は、昔自分で自分の家族を殺してしまった。そこにいるフラウロスの力を使って。
そこで俺は、俺と同じようなことが起きないようにソロモン72柱の悪魔全員を集めて再び封印するべく旅に出ていたところこの森に入ったというわけなんだ。」
フラウロスの事、ハーゲンティの事をアランがフラウロスに出会ってからのことをすべて話した。
アンドロマリウスはアランの話を聞いて感心した。
「坊主そんなに小さいのに、よく過酷な過去を乗り切った。」
アンドロマリウスは静かに怒っていたがアランの話を聞いてその怒りを鎮めた。
「坊主、お前の正義とはいったいなんだ?」
アンドロマリウスは唐突にアランに聞いてきた。
アランは考えることなくアンドロマリウスに言った。
「俺の正義は、強い弱いに関係なくみな平等にされど悪は絶対に許さないことだ。自分で決めたことは絶対に曲げず、それを誰かに押しつけもしない。自分の責任は自分で負うそれが俺の正義というものだ。」
アランは、強い信念をもってアンドロマリウスに答えた。
「なるほど、それがお前の正義か。」
アンドロマリウスはそう言うとそっと目を閉じて迷っていた。
「坊主お前すべての悪魔を集めると言っていたな。なら俺を一緒に連れてってくれ。必ずお前の役に立つだろう。」
アンドロマリウスは、自分からアランと一緒に旅をすることを決めた。
アランはアンドロマリウスから出た言葉を聞いて、驚いていた。
「一緒に来てくれることは願ったり叶ったりだがいいのか?お前だって封印することになるんだぞ。」
アランはアンドロマリウスに聞き直した。
「構わんジャックに好きなように生きろと言われたからな。私は私の道を行くさ。」
そういうと、アンドロマリウスは、アランを手招きして森の奥へと案内した。
ついたところは、小さい泉だった。
アンドロマリウスはまだ先へと這っていた。
その先には木で作られた墓があった。
墓は木を十字で組んだもので花が手向けてあった。
「その墓は、もしかして。」
アランがアンドロマリウスに聞くとアンドロマリウスは静かに頷いた。
アンドロマリウスがアランに首に着けていたネックレスをアランに渡すと
「契約解除」
そうアンドロマリウスが言うとアンドロマリウスの魂がジャックの体から離れてネックレスについた。
アンドロマリウスがジャックから離れる瞬間
「さらばだ、アンドロマリウス。」
それは幻聴だったのかもしれない。
だがアンドロマリウスには確かに聞こえていたのだ。
アランはジャックを埋葬すると墓の前で手を合わせてその場を後にした。
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