6 リフレクト
甲高い金属音が響くのと、渚がその場に倒れたのが、同時だった。
「大丈夫!?」
日向はすぐに身を起こし、折り重なるようにして庇った渚に呼びかける。彼女は、日向が地面についた手の間で、寝転んだまま瞬きを繰り返していた。その鎖骨に自分の影が落ちる。
次の瞬間、日向はものすごいスピードで飛び起きた。
「ごめんなさい大変失礼しました悪気はないんだよ俺は無実ですぅ」
手で渚を退けながら腕で顔を隠すので、日向の格好は奇怪なものになっていた。
観客の誰かが吹き出す。ひとりでに立ち上がった渚も、笑いを噛み殺して日向に駆け寄った。
ライブの真っ只中、直感的に渚に落ちるかに見えた落下物は、実際には向かいのビルに沿うように滑り落ちたようだった。おかげで怪我人は出なかったが、落下物の周辺がすぐに立ち入り禁止となった。当然、ライブの続行も不可能であった。
「新曲お披露目ライブだったのに、中途半端なところで終わっちまったな」
銀次が落胆する。
「こればかりは仕方ないよ。でも、渚ちゃんに怪我がなくてよかった」
「日向さんも無事でよかったです。本当にありがとうございました」
「そうそれ、マジでイケメンすぎな?」
大きな事故にならなかったことを安堵し、愉快に規制線の解除を待つ一行。その背後に、 一人の男が接近する。
「なあ、さっきあそこでライブしてたのって、お前ら?」
色黒のむすっとした表情で、中年の男に声をかけられた。あまりの強面に、四人は一瞬身構える。
が、それは杞憂だった。
「やっぱそうだよな! 今のライブ、めちゃくちゃカッコよかったぞ」
目を輝かせてそう語る彼。日向がパッと笑顔を咲かせる。
「見てくれてたんですね。ありがとうございますっ」
「特に最後の新曲、あれはかなり気に入った。どこかで最後まで聴けねぇのか」
「曲はいつも動画サイトに上げているので、『under the highway』で検索してくれたら……あれ、新曲って更新したっけ?」
律に助けを求める。
「いや、そもそも動画を撮ってない」
「そんならライブの続きしようぜ! 機材が運び出せるようになったら、どこか近場に移動してカメラを回すんだ。はい決まり!」
途端に舞い上がる銀次。このアイデアには、二人も納得顔でうなずいた。日向が男を振り返る。
「近日中に、改めてライブをします。具体的な日時はまたSNSで宣伝するので、よかったらその時にいらしてください」
「おっ本当か。そりゃ楽しみだな」
男は近所のオンボロアパートに住んでいるそうで、この近辺でライブを開催してくれるなら、いつでも立ち寄ると約束してくれた。見た目や態度は、終始ヤのつく人のような怖さがあったけれど、悪い人じゃないのはなんとなく分かった。
建物の点検が終わり、規制線が解除されたのがその日の夕方。一行は機材を片付けると、明日以降観客の期待に応えるために、今日のところは帰路についた。
その道中のこと。汽車みたいな雲が、いいや雲みたいな汽車が、車窓を悠々と横切っていく。それに気付いたのが渚と日向だけだったというのは、またロマンチックな別のお話――
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