midnight5①
類がキーボードに指を踊らせ、望月が並ぶファイルの背をなぞる。二人は店舗スペースの奥にある類の部屋に、この数日間こもりきりになっていた。芹沢の一件に関する情報を整理するためである。
「っとまあこんなもんかな」
軽快なタイピング音が途切れ、ようやくキャスター椅子が回転する。
「何か分かったか」
「ああ、かなりの収穫があったよ。報告は大きくわけて三つ」
類が、親指から中指までをピンと立てた。
「まず前提として、プロダクションはキメラという犯罪組織を介して、麻薬の密輸や売買、詐欺、闇金、銃火器製造など、ありとあらゆる違法な商売を行っていた。事務所が設立してから一度も経営赤字に陥ったことがないのも、そこからくる収益のおかげだろう。加えて、お前が見た葛谷とかいうガラの悪い輩、そいつもやはりキメラの構成員だった。事務所が彼らに表の身分を与えることで、組織はその実態を隠し通すことができていたんだと思う。組織が事務所を隠れ蓑にし、事務所は裏稼業で甘い汁を吸う。そういう密接な関係が、事務所創立当初から続けられてきたみたいだね」
「じゃあ、やっぱり芹沢は」
「プロダクション取締役社長を務めながら、キメラ総帥という裏の顔も持つ――と言いたいところだが、事務所の方がキメラの傘下に入っている場合もある。もしそうなら、芹沢は支部局長としてキメラに利用されているにすぎないかもしれない。彼女の正体や両者の上下関係を断定するには、今の段階ではまだ無理がある」
「いや、ちょっと待って」
望月は類に、棚から引っ張り出してきた分厚い紙の束を手渡した。逃がし屋の顧客帳簿であった。
「ここに、土方崇とかいうおっさんがいるだろ。そいつがどうやら、今は事務所の取締役員をしてるらしいんだ。この記録では、暴力団から依頼を受けてターゲットになり、逃がし屋として一時的に匿ったことになってる。確か、俺が狙撃に失敗して実は生きてたっていうていで、例外的に同じ名前のまま帰したやつだよ。もうこの時点で、裏社会絡みの危ない人間だってことはよく分かるし、こいつに接触すれば、芹沢の裏の顔やキメラのことも詳しく聞き出せるんじゃないか」
「それでもいいけど、この土方崇って何か見覚えが……」
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