リフレクト2③

 半歩足を引きながら、三人の顔色をうかがう。

 やはり、他人の世界に無知なまま入り込んではならなかった。未知に心惹かれ勇んだところで、自他ともに心地良いと思えることなど数少ない。冒険や友情なんていう夢物語は、紙の上で組み立てるのが限界なんだ。

 そんなこと、とっくの昔に知っていた。

「待って」

 それなのに、胸の高鳴りを抑えられない。

 日向が決意したように顔を上げる。二人を見つめるその瞳は、見えない炎を宿して煌めいていた。

「わがまま言える立場じゃないけど、やっぱり諦めきれないんだ。彼女の言葉は、きっと誰かの心に刺さる。一度だけやらせてくれないか」

 銀次はなおも口を尖らせる。

「だからって、昨日会ったばかりの子に、俺たちの曲を託すことあるか?」

「それは愚問だろ。一目で惚れ込んじまったから、こいつはこうして頼みに来てるんじゃん」

 鋭く指摘する律。日向が言葉を継ぐ。

「俺たちにできることは、もうやり尽くした。三人じゃきっとダメなんだ。ただでさえ最近は人気が低迷していて、一刻も早く、何か大きな行動を起こさないといけない。お前だって、音楽人生をバイトまみれで終わらせたくねぇだろ?」

 こればかりは、銀次も反論できなかった。目を逸らし、歯を食いしばり、吐き捨てる。

「好きにしろ」

 彼はきびすを返して、その場を立ち去ってしまった。

 律が私の顔をのぞき込む。

「いまさらだけど、こっちの事情に巻き込んじゃって、なんかごめんな。日向がどうしても引き入れたがった君のこと、俺も一度信じてみたいからさ。改めて頼めるか」

「……いいん、でしょうか」

 思わず銀次の背中を目で追う。確かに彼は、私の介入を否定したわけじゃないけれども……

「銀次を怒らせたのは俺の責任だ。君は、君の気持ちを大事にしてほしい」

 日向が渚に笑いかける。渚はその瞳を見つめ返し、次いで勢いよく頭を下げた。

「長谷渚といいます。しばらくの間、よろしくお願いします」


 FILE06:詠う者・長谷渚

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