ぷくぷくぷくん【ノベプラ初掲載】

宝希☆/無空★むあき☆なお/みさと★なり

第1話

01

その昔、バイオリンのコンサートでドレスのフックが外れた七緒に、前列真中の観客である身なりのきっちりした幼い少年がハンカチーフを渡す。「負けるな、ぷくぷくぷくん」との言葉にハンカチーフで胸元を隠した七緒はニジンスキーに捧ぐを途中から最後まで弾き終え、堂々と舞台の袖にむかった。海外に拠点を移すバイオリンの先生にジャケットをかけてもらい、恩師の胸で最後に花を贈るチャンスを逃した。そんな事を泣きじゃくる。

🌑02

やがて月日がたちそんな高校生だった七緒もまだ産休だが、高校の音楽教諭になっていた。其処は兵庫県で、芦屋財閥のお膝元。そして七緒の担当クラスにその御曹司と腹違いの男子が通っているらしい。こんなとこかな下準備はと思った七緒は思い出のハンカチーフを見つめていた。Kと刺繍されてるそれは突然のピンチに「ぷくぷくぷくん」と謎のあだ名をつけられた七緒の後悔になっていた。

🌑03

洗ったまま胸ポケットにそっと挿している。「応援してくれてありがとう。助かったわ」と伝えてかやしたかったのだが、「ぷくぷくぷくんって何?」の方が大きな疑問で、少年の姿を見失ったのだ。その事を思い出し、はぁと脱力する。チャイムが鳴ったので、職員室で座っていた七緒は音楽室に向かった。

🌑04

「ぷくぷくぷくん?」すれ違った男子の驚いた声が聞こえた。綺麗な顔立ちをしている。何処と無く芦屋財閥の現在当主に似ていた。「もしかして芦屋君?貴方ぷくぷくぷくんって何か知ってるの?」教えて欲しいなと声をかけると、少年はふいっと顔を背け「芦屋亮一、音楽の授業保健室で休みます」と言って去っていった。

🌑05

七緒は「ぷくぷくぷくん」という言葉を聞いた時にコンサートの時のあの子と思ったが、可愛らしい容姿が精悍に変わっていたので自信もなく、惰性で音楽室のドアを開けた。そして芦屋智久の顔を確認した。先程の男子と似ていたが、影がある亮一と違い智久からは華やかな印象をうけた。ドキドキしながら七緒は自己紹介をして初めての授業をおこなった。

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