70食目、魔法大国マーリンへ出発
レイラが玉座の間へ戻って来てから数分後に魔法大国マーリンへ向かう準備が出来たようだ。
古都へ置いてきた馬車の代わりとして至急馬車を三台用意した。
先頭は青龍隊、真ん中が食料や武器等、後尾が王様と王妃様が乗る馬車になっており、一見普通の豪華絢爛な馬車に見えるが、これは馬車型魔道具になっている。
外見は豪華絢爛以外は普通だが問題は中だ。魔道具だけあって普通の馬車ではない。
中を覗くと………中も外に負けず劣らず豪華絢爛な装飾で飾られてある。それだけなら、まだ普通だ。外見と中身の広さが全然違う。
外見だと五人で定員だと誰もが思ってしまう。
しかし、中を見ると広々とし十数人は余裕で入れる。
それに、水道や電気も完備され動くホテルと言っても過言ではない。
因みに後尾の馬車に乗るのは、王様王妃様は当たり前として娘のレイラに加えて俺も相乗りする事に何故か決まっていた。そして、王様王妃様の世話役であるメイドが数名。
王様曰く「カズト殿は料理だけではなく異世界の遊戯に詳しくと聞く。
儂らに教えてくれぬか?いや、教えよ。マーリンに着くまで暇なのじゃ」と王様の我が儘に付き合う事になった訳だ。
青龍隊隊長ビィトにも「カズト殿が一緒でしたら、これ程確固たる護衛はいません」と豪語され、誰も王様達と相乗りする事に反対する者はいなかった。
まぁ任された任務は最後まで全うするつもりだ。
「それにしても………広いですね」
「これを作製したのは、そなたらの所にいるミミであるぞ」
い、いつのまに!レストラン〝カズト〟と同じく水道や電気完備とかこの世界としては有り得ない技術が使用されている。
こんな事出来るのは、地球の知識を持ってる俺と俺の頭をたまに覗き見るミミくらいだ。
だが、魔法が苦手な俺には到底魔道具は作れない。よって、ミミしかいない。
これを見た時から薄々気づいてたけどね。しかし、この馬車いくら掛かってるのだろうか?地球換算でいったら、恐らく一億円はくだらないとカズトは思う。
「魔法大国マーリンへ出発進行!」
青龍隊隊長ビィトの号令に馬車は一斉に動く。馬車と言っても騎士達は歩きながら護衛してるからかスピードは徒歩とそんなに変わらない。
王族の護衛だから、それはしょうがない。
「王様王妃様、手土産としてこちらをお持ち致しました」
カズトがアイテムボックスから取り出したのは、数種類の手作りクッキー。もちろん、カズト特製だ。まだ、貴族の間でしか出回ってない砂糖を存分に使用している。
その砂糖も時折、商人ギルドにカズトが卸してるから実現してるのだ。砂糖を拝見した貴族達は例外なく、「この世にこんな甘い物があったとは」と驚愕の表情をしていたという。
「そのクッキーに合うお茶の茶葉もお持ち致しました」
茶葉をメイドの一人に渡し入れて来るのを待つ。オール電化のお陰で普通の数倍早くお湯が沸き、数分の内にお茶が王様王妃様の前に出された。
「紅茶で御座います。クッキーと合う事必至です」
料理に関してカズトの事は信頼してるが、初見でクッキーを恐る恐る王様が手に取り、口に放り込む。
サクッと口の中にバターの風味が行き渡る。
「うまっ!そして、あまぁぁぁぁぁ!これは!このクッキーとやらは砂糖を使っておるな」
王様ならもちろん貴族の間で流通してるものを把握してると思っていた。その中に砂糖も含まれる。
「はい、良くお分かりで」
わざと王様のプライドを壊さない程度の目安で多目に砂糖を使ったのだ。分かってもらわなくては逆に困る。
「して、こちらの紅茶とやらは!」
紅茶を一口含んだ王様は、そのままの姿勢で数秒間動きが止まり、その後心臓マッサージで息を再開した者のように動き出した。カップをテーブルに置き紅茶の味の余韻に浸っている。
「何という旨さなのじゃ。香りが鼻から抜け実に心地良い」
はふぅ~っとリラックス状態の王様。
この世界のお茶という概念は飲み物というより薬の方が近い。
薬効成分があろうと思われる物質を魔法使いが調合し煎じるのが、この世界のお茶だ。けして、地球の日本のように和んだりはしない。
「それじゃぁ、私も頂こうかしら」
王妃様、王様の様子を見てから目の前のクッキーと紅茶が美味だと理解し口にする。
涼しい顔で実の夫を毒味役に使いやがった!王様は気づいてない様子だけど、この中で王妃様が一番怖えぇぇぇぇ!
サクサク
「まぁ甘くて美味しいわね。このサクサクとした食感と口の中で店で頂いたピザとやらに似た香りがするわ」
作り方は違えどチーズとバターは両方とも乳製品だ。似たような香りがしたのはそのせいだろう。
ゴクゴク
「良い香りね、お茶が美味しいと感じたのは初めてよ。カズト様、この紅茶とやら売ってくれないかしら」
どうやら王妃様は紅茶が気に入ったようだ。
別に売っても良いが、こちらの物価が今だに理解しにくいところがある。後々ウチの嫁達に相談でもしよう。
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