41食目、獣耳従業員ゲットその6

「カズトぉぉぉ、ルーちゃんを隅々まで洗って来たわよ」


 レイラがルーシーに新品のチャイナドレスを着せて来ると開口一番でそんな事を言ってきた。

「そんな言い方を止めろ」とこの場で言いたいが「褒めて欲しい」と言わんばかりに目をキラキラと期待の眼差しをこちらに向けているのが分かる。

 しょうがないとレイラの方を向いた瞬間、手元のエックスをポロっと落としそうになった。

 だって、ルーシーがとんでもなく美人さんになってるんだもの。

 俺が用意したスリーサイズを寸分違わずルーシーサイズで特注したチャイナドレスを着用し、レイラのブラッシングと化粧でビフォーとアフターの差がとんでもない事になっている。

 一瞬誰だか分からなかった。俺がジーーっと見ていたらドロシーとミミからの視線に気付き我に帰り事情を説明した。スゥは無関心でせっせと洗い物食事をしてる。


「そうなの、事情は分かったわ。これからよろしくね、ルーちゃん」

「んっ、凄い変わりぷりなの。カズトが惚れ直すのも無理はない」


 俺をロリコンにしないでくれ。まだ10才の子供に欲情してたまるか。


「このまま引き続きレイラにルーシーの教育担当を命ずる。ルーシーは失敗を恐れるな。そこから何を学ぶかが大切なんだ。

 後、1番大切な事を教えよう。それは………笑顔だ。ルーシーの笑顔がみんなを幸せの気持ちにしてくれるはずだ」

「「イエッサー」」


 レイラの真似をしてルーシーが敬礼をした。

 今日はレイラの後ろを着いて行くので精一杯な様子で、まるでヒヨコが親鳥の後をヨチヨチと着けていく風景と重なる。

 常連客を中心にレイラはルーシーを紹介し、時間が出来次第ルーシーにこの国の文字と簡単な計算の勉強をする。

 文字が読めないと記録とメニューが読めないし、計算が出来ないとお会計が出来ず仕事に影響を及ぼすからだ。

 元々犬人族コボルトは他の獣人より頭がトップレベルに良いとされている。

 それに主と認めた者には死ぬまで従順だと言われる。それにより傭兵の他に執事又はメイドとして勤務する事が多いそうだ。


「お、お待たせしました。カレーライスで御座います」

「おっ!待ってましたって随分と可愛いお嬢ちゃんじゃねぇか。新人なのか、頑張れよ。ガッハハハハ」

「カウルさん、今日から働く事になったルーちゃんよ。多少失敗するかもされないからそこは大目に見てくれると嬉しいわ」

「よ、よろしくお願いします」

「おぉ、任せとけ。何か言ったヤツがいたら俺がぶっ飛ばすからよ。ガッハハハハ」


 大きな手でポンポンとルーシーの頭を軽く叩く。ルーシーからしたら余りにも大きな手にルーシーは萎縮してしまうが、何とか笑顔を保つ事が出来た。

 こういう飲食店を含むサービス業は、どんなサービスよりも笑顔が一番最重要だとカズトは考える。


「はい、よろしくお願いします。ニコッ」


 ルーシーが微笑んだ瞬間、ドッキューンとキューピッドが矢でハートを撃ち抜くような擬音が気のせいだと思うが鳴り響いた気がした。

 レイラとルーシーの頭に?が浮かび辺りを見渡す。この二人にも聞こえたようで首を傾げてる。

 レイラがカウルと目が合った途端、カウルが目を反らした。

 これによりレイラには擬音の正体が何なのか分かった。


「カウルさん、ウチのに手を出しちゃダメですよ?ロリコンになりますから」

「レイラ姫、な、何の事だか分からんな」


 焦る様子で水をがぶ飲みする。


「そういう事にしてあげます」

「レイラ姉さん、ロリコンってなーに?」

「ルーちゃんにはまだ早い事よ」


 この後もレイラはルーシーと一緒にホールを廻り、注文を受け料理を届けるがその度にドッキューンと擬音が鳴り響く現象が当分の間続くのである。

 そして、知らぬ間にルーシーには二つ名が付いた。その二つ名とは『〝カズト〟の看板娘』と。その影響なのか客足が倍近くに延びたのは言うまでもない。


「ルーちゃん、注文お願い」

「おい、俺が先に頼んだぞ」

「なんだと!やんのか、コラッ」


 その代わりにお客様のケンカが増加した。その原因として挙げられるのが、やはり異世界物の世界は冒険者が多く、冒険者の中にはケンカ早い者が9割以上占める。

 そして、その大半がルーシーのファンなのだ。中には職人気質の者も含まれるから余計にケンカが勃発する。

 その対策としてケンカした者をレイラかドロシーが対応し、貴族や王族等のお偉い方には個室を利用してもらう事で今現在落ち着いている。

 何故ケンカ仲裁にレイラとドロシーに対応して貰うかというと冒険者の大半は二人の怖さを知ってるからだ。

 知らない冒険者がいれば、それは初心者かバカのどちらかだ。

 他にもトラブルが生じる次第に試行錯誤して行くつもりだ。

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