40食目、獣耳従業員ゲットその5

 これでルーシーが店での勤務する事と妹の捜索の大まかな段取りは決まり、次にやる事と言えば━━━


「レイラ大尉に任せたい任務がある」

「何でありましょうか?隊長」


 アギドの住民には意味不明かもしれないが、特に意味もなく自衛隊風な呼び方をする。

 ミミとルーシーは頭に?が沢山浮かんでるような表情をし首を傾げる。

 レイラに到ってはノリノリで自衛隊ごっこに付き合ってくれている。そのお礼は後でしよう。


「ルーシー隊員の体をキレイにしておいてくれ。これは重要な任務である」

「イエッサーであります」


 そう命令すると、クルリと半回転しルーシーの方へ向く。

 そして、ニコッと微笑みながらジリジリとルーシーへと近付き誘拐犯の如くこの部屋から連れ去った。

 レイラの目的地は大浴場であり、目的はルーシーをキレイにする事。このままでは飲食店で勤務するには衛生上汚すぎる。

 レイラの頭の中では、それが目的の半分だ。もう半分は可愛い過ぎるルーシーの身体の隅々まで洗う事。

 前者と後者では意味自体は同じ風に聞こえるが意味合いが大きく異なる。

 残念だがルーシーには御愁傷様と言うしかない。勇者メンバーからは逃れるすべは存在しないのだ。


「ルーちゃん、さぁ着きましたわよ」


 カズトで慣れたのか脇に抱えられても文句は言わなかったが、大浴場に到着後、そのあんまりの美しい光景に開いた口が塞がらない。

 大浴場よりは風呂自体を初めて見るやいなや興奮が抑えられない様子で尻尾がブンブンと振り回す。

 例外はあるが犬族コボルト含め獣人は元来水浴びが大好きで、その本能からか風呂には目がないはずなのだ。

 ただ、風呂は貴族しか入れない代物で目にした事ない獣人は数多くいる。


「レイラ姉さん、これは一体何!煙がモワモワとしてて、何か知らないけどスゴく入りたい気分」

「これは温泉って言うのよ。それにモワモワとしてるのは煙じゃなくて湯気って言うらしいわ。さぁ服を脱ぎ脱ぎして入りましょうね」


 レイラが満面な笑顔でルーシーの服を脱がしている。ルーシーは抵抗もなく大人しく両手を万歳してスッポンポンになる。

 全裸になった途端、ルーシーは湯船にダイブし水飛沫が上がる。

 そのせいで湯船の外側へ漏れたお湯はあるが、掛け流しであるため減りはしない。


「わふぅ、何だこれはぁ~………こんな気持ち良いのがあるなんて………ふにゃぁ~」


 蕩けそうな表情で大満足で気に入った様子だ。ただ、レイラはルーシーに注意する。


「ルーちゃん、入る前に身体を洗わないとダメですよ」

「でも、これ気持ち良すぎて出られないよ」

「もう、しょうがないですね」


 だらしなく蕩けたルーシーを持ち上げ洗面所に連れて行き隅々まで身体を洗う。

 そう、隅々まで━━━後にルーシーの悲鳴が響き渡るのは必然である。


「わふぅ、広いしスイスイと泳げちゃう」

「お風呂では泳いではいけませんよって聞いていませんね」


 レイラに隅々まで洗われたルーシーはストレス発散するといわんばかりに広々とした湯船を泳いでる。

 それも犬族コボルトだけに犬かきで、クロール並みに早く泳いでる。

 それでいて無駄な水飛沫を立てず静かに進んでいる。

 ただし、お湯の中ではアヒルやカモみたいに忙しく掻いてる。


「レイラ姉さん、ここ広くていっぱい泳げるよ」


 凄く可愛い笑顔で微笑んで告げる。


「キュン!えぇそうね(そんなに可愛いとダメって言えないじゃない)」


 散々泳ぎまくり温泉を堪能したと判断したレイラはルーシーを回収し湯船から上がった。

 脱衣場には何故か真新しい服が用意されており、ルーシーにはレストラン〝カズト〟のユニフォームであるチャイナドレスが置いてある。

 もちろん、スリーサイズもバッチリで尻尾穴まで開いてある。


「レイラ姉さん、僕もこれ着るの!」

「そうよ、ルーちゃんにきっと似合うわよ。ハァハァ(カワユス過ぎて鼻血出そう)」


 可愛いもの好きなレイラが発作で息を荒げる。発作といっても病気じゃない、可愛いものを見ると、つい癖みたいなもので息を荒げてしまう。つまり、可愛いもの好きの変態だ。

 でも、ルーシーには今日初対面であるレイラの発作の事は知らず変態の事は知らない。まぁここで働く内は知らない方が幸せかもしれない。


「うぅ、これ下がスースーするよ」


 スカートを履く者しかも素足をそのまま出してる者はアギド全国において少数派なのだ。

 慣れないとルーシーみたく不快感を感じてしまう。

 レイラの場合は元々ビキニアーマーを着用してたお陰で直ぐに慣れたらしい。


「その内慣れるわよ。それに━━━」


 レイラがウィンクをすると、いつの間にか手にヘアブラシを持っておりルーシーを椅子に座らせブラッシングを始めた。

 本能からかルーシーはブラッシングという言葉は知らないが、それが気持ち良いという事を直感で理解した。

 その直感に従い大人しく椅子に座り、そしてレイラにそっと体を預けた。

 長年ブラッシングをしてないからか毛を梳く程、毛玉が面白く取れやる前と後では明らかに毛の重量感が違う。


「わふぅ、何だこれは!温泉とは違う気持ち良さなのだ」

「うふふふふっ、ルーちゃんはせっかくの美人さんですからキレイにしないと勿体ないですわよ」

「ぼ、ぼぼぼぼ僕が美人!美人なのか!」

「えぇ、きっとカズトも驚くはずですわ」

「そうか、兄ちゃんの驚く顔見てみたいな」


 ブラッシングの他にも通称レイラコレクションと呼ばれる化粧品をルーシーに施し一種の美術品へと変貌を遂げるのだ。


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