25食目、温泉での酒宴

 片付けが嫌で逃げて来たレイラとドロシーは二人して温泉という名の大浴場へと来ていた。

 もちろん、熱燗を含めた数種類のお酒とそれに合うカズト特製のオツマミをドロシーのアイテムボックスに入れて準備万端にしてだ。

 ちなみに、一部の酒とオツマミはカズトが大事に後で楽しむために取って置いていた物である。


「カズト、怒ってるかな?」

「カズトなら許してくれるわよ」


 そう楽観視するが、まぁ実際的に片付けから逃げた事は経験上許されると二人はほぼ100%━━━いや、80%確信してる。ただし、お酒とオツマミを無断で持ち出した事に関しては、また別の話だ。

 ルンルン気分で大浴場に到着、衣服を脱ぎ脱ぎして湯船に向かうと先客がいた。


「おや?ユニではありませんか?」

「姫様にドロシー殿まで!どうしてここに?」


 先客の正体は、薔薇隊の人達であった。それに加え、父親が迎えに来るまで宿泊してる鬼人族オーガであるアリスとその従者であるシャルが入浴していた。


「どうしてって入りに来たに決まってるじゃない。それにしても………相変わらず、大きいわね」


 レイラは神速でユニの背後に回り込み両脇からたわわに実った二つの果実をしっかりと掴みタワワと揺らしてる。

 しかし、その数秒後、ガツーンと誰が聞いても痛そうな音が大浴場に響き渡る。

 誰しもが自分が叩かれた訳じゃないのに、頭を押さえてる。それほどの衝撃音であった。


「いったーい、ドロシー何するの?!」

「隊長が困ってるじゃない。それに、大事なお客様よ。カズトもお客様は神様って言っていたじゃない」


 アイテムボックスから分厚い魔法書を取り出し、その背表紙でレイラの頭を鈍器みたく叩いたようだ。

 姫であるレイラにこういう事を出来る者は限られてくる。


「隊長すみません。ウチのレイラが失礼な事を」

「いえいえ、姫様がやった事ですし慣れてますので………」

「お詫びに、これはどうですか?アツカンというお酒です。カズトの故郷では、お風呂で飲むのに最適なお酒とか」


 ドロシーはアイテムボックスからお詫びとして熱燗をお裾分けをした。

 ユニだけでは、不公平になるというか新人リーダー含め部下五人が羨ましそうにこちらを見てる。


「そちらもどうです?ちょうど、人数分の御猪口ありますし、サービスですのでお代は頂きません」

「あっ!それわた━━━んーーんーー」


 レイラが余計な事を言わないようにドロシーが口を押さえてる。

 レイラは抵抗するが、徐々に顔色が青く変色してグッタリと動かなくなる。お約束な展開だけど、現実的にヤバくないだろうか?


「ド、ドロシー殿、姫様の顔色が変わっていってるのだが………」

「あっ!ごめーん。大丈夫?」


 やっと口が解放され呼吸が再開されると、一気に顔色に生気が戻って、どうにか死なずにすんだ。

 もう少し長く口を押さえていたら、本当にヤバい展開になっていたと思われる。


「ゲホゲホ………あ~、死ぬかと思った」

「姫様、お体に大事ありませでしょうか?」


 ユニはレイラを実の妹のように思っており、めちゃくちゃ心配している。まぁ少し先の将来、一緒にこの店で働くようになるのだがその話はまだ今度話そう。


「ユニ大丈夫よ。勇者のパーティーメンバーがこんな事で死ぬもんですか」


 そのセリフは魔物との戦闘中や戦場でいう事であって、こんな所で言っても説得力皆無である。ユニは笑いはしなかったが、部下五人が笑いを堪えようと口を押さえソッポを向いている。


「まぁまぁ、みんなでアツカンでも飲みましょう。オツマミもありますわよ。そちらの方もよろしかったら、いかがですか?」


 大浴場には、薔薇隊の他に一週間程宿泊してる鬼族オーガのお二人も入浴していた。

 ドロシーに誘われ、ご相伴にあずかろうとアリスとシャルは、みんなの方へと近付く。やはり、お酒は人数が多い方が美味しいもんだ。中にはゆっくりと飲みたい者もいるが、この中にはそんな者はいない。


「良いんでしょうか?私達まで頂いても………」

「人数多い方が美味しいんですから。注ぎますから、どうぞ」

「あ、ありがとうございます。頂きます」


 トクトクと御猪口に注ぎクイッと一気に飲む。御猪口自体が小さいため、直ぐに無くなる。

 もっと大きいグラスでも良いと思いがちだが、ここは湯船の中で不安定な状態なので、ちょうど御猪口が良いのだ。

 次にお酒には欠かせない、おつまみの出番だ。ドロシーはアイテムボックスから取り出すと、木の桶に置いた。水の浮力で浮くし、そう簡単には零れない。


「ドロシー殿、これは一体?」

「カズトの故郷で〝オツマミ〟というらしいわ。簡単に言うとお酒と一緒に合う食べ物の総称ね。左からポテトチップス、スルメ、クリームチーズのショウユヅケ、シュトウ………」


 他にも取って置きなおつまみと酒を取り出し、女性陣らで大いに酒盛りを楽しむのであった。

 しかし、言わずもながらほぼ全員が二日酔いなったのは別の話である。



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