23食目、賄いという名の尋問
カズトが食堂に戻ると、お客様はいなくレイラを含め三人は清掃作業を行っている。
「レイラ呼んだか?」
俺の声に気付き、ニコニコとレイラは笑顔で反応し近付いて来る。その時に何故か背中に悪寒が走る。
これは動物で言うところの逃走本能に近いかもしれない。だが、頭で分かっていても足が床に接着されてるみたいに動かない。
「ミミ、カズトに例のあれを見せなさい」
側にレイラしか居なかったはずだが、いつの間にかミミとドロシーがいた。
勇者であるカズトが他の者の気配に気が付かないはずがない。だが、気付けなかった。
「カズト、これを見て」
ミミが掌に乗せてるのは、占い師が使用する水晶玉に似ているが"覗き見の宝玉"という魔道具だ。
これは使用者の魔力量によって見れる範囲が決まる遠距離の風景を見る事が出来る魔道具だ。
ただし、ミミが使用すると範囲はほぼ無限である。しかも結界やそれに準ずる魔法でも防げない。
まぁ、ミミにとっては【覗き見の魔眼】の所持者なので無意味なのだが、大勢で見る場合は魔道具の方が適する時がある。
あと一つこの魔道具には再生機能が付いており、過去の映像を見る事が出来る。すなわち━━━━
「これは薔薇隊隊長と何してるの?」
魔道具には、俺とキャミを着ているユニの二人が映ってる。それを見せられ俺の掌は、今汗でビッショリと濡れてるだろう。これは正直に言うべきか、それともウソでとぼけるか。
しかも、ミミが持ってる【覗き見の宝玉】は声まで録音出来る代物なのだ。
カズトが言うまでもなく、全部バレている。敢えて聞くのは、三人の慈悲かもしれない。
「まぁまぁ、それよりも賄いを食べましょうよ」
おっ!救世主がここにいた。ドロシーが珍しく話に割って入り、強制的に話を終了させる事にカズトは感動を覚える。
「食いながら、ゆっくり話しましょう。ニヤリ」
救世主じゃなかった。確実に俺の退路を絶っていく。そう言えば、今日の賄い作るの俺じゃないか。
四人の内料理を作れるのは、カズトと一緒に厨房に入ってるミミだけだ。順番に賄いを作っており、今日はカズトの番って訳だ。
ドロシーに作らせると、毎回何故か爆裂魔法エクスプロージョン並みに大爆発が起こる。それなのに、一番近くにいるドロシーは無傷なんだよな。
レイラに作らせると、毎回何故か常人が食うと死ぬような毒料理と言うべき代物が出来上がる。
どんな食材でも同じく毒料理を作るのは、ある意味天性の才能かもしれない。ていうか、人に出す前に味見をしろ、味見を………。
それで俺が作る事になったが、メニューは………うん、あれにしよう。ちょうど、玉子やゴハンが余ってるからな。
カズトは包丁に
鶏肉を適当な大きさに切り、炒めてある玉ねぎの上へと入れ更に炒めてから、炊飯器からゴハンを取り出しフライパンへと投入する。
全体的に炒め、最後にトマトケチャップを回し掛け味付けしたらチキンライスの完成だけど、まだ完成じゃない。
チキンライスとは違うフライパンを用意し、その中にバターを入れ溶かしながら全体的に引いていく。
バターが溶けたら一人分二個の玉子に牛乳を大さじ入れ混ぜたものを投入し、火加減と玉子の固まり具合に注意しながら、玉子の形をフライパンの柄を叩きながら整えていく。上手い具合に形が出来たら、ふわとろなオムレツが出来上がりだ。
盛り付けたチキンライスの上にふわとろなオムレツを乗せ、最後にオムレツの真ん中をナイフで切れ込みを入れ左右に広げると、ふわとろオムライスの出来上がりだ。後はトマトケチャップなり、デミグラスソースを掛けたりする。それは人の好みだ。
「ふわぁ、ふわとろだぁ。玉子がふわふわだぁ」
オムライスを前にてレイラの瞳がキラキラと輝き子供のようにはしゃぐ反面、ヨダレが直ぐに垂れそうだ。
「はむっ!ふわトロトロで赤いゴハンが良く合うわね。しかも、ゴハンに鶏肉かしら、それが良い味を醸し出してる」
「はむはむ、スプーンが止まらないです。まるで魔法でも使ってるみたい」
「………はむっ、まだカズトには敵わない」
結局、食べてる最中に話す事になっていたが、三人とも夢中で食べ続け皿は空っぽで完食していた。
それほどに、カズトの料理には誰もが虜にする魔力があると表現した方が良いのか、魔法がある異世界アグドでは変な表現方法になると思うが………。
「ふぅ、満足です。ご馳走様」
「はっ!そういえば、追及するの忘れてましたわ。何てカズトの料理は恐ろしいのでしょうか」
「………同意する。カズトの料理は恐ろしい」
遠回りに美味しいと言ってると思って良いんだろうか?これで、忘れると助かるのだけれど、そう上手くいかないか。
「さぁ、白状しなさい。隊長と何をしてたかを」
「………それはもう知ってるけれど」
やっぱり、最初から知ってたのか。あの魔道具は声まで聞こえるからな。はぁ~、俺にプライベートってあるのかな。
「ミミ!バラさないの。裏切り者」
「え~、面倒くさい。ミミにとっては、もう一つの方が大事だと思います」
また、何かあるのか!勘弁してくれぇ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます