11食目、何処かのお姫様が宿泊する

 従者はカラスが飛び立つのを見送ってからこちらに戻って再度席に着いた。無事に魔法………いや術が成功したようだ。


「これで連絡来るまで待つのみです」

「父上なら大丈夫と思うかのぅ」


 あのカラスの術で連絡を取ろうとしたのは、姫様の父親だったのか。姫様の様子からそんなに厳格な父親ではないらしいし安心かな。もし厳格でこっちにいちゃもんつけられ飛び火しちゃ敵わないからな。


 カーカーバサバサカーカー


「おっ、どうやら来たようだ。どれ、返事は………」


 カラスの足首に付けられている手紙を取り従者が読み始めるところ数分後、カズトに渡してきた。俺に渡して来るなんて、何て書いてあるのか怖い。


『勇者カズト殿、此度は娘と我が部下が失礼をしてしまい申し訳ない。そなたの勇姿の噂は予々お耳に入っておる。

 その勇者カズト殿に失礼を承知の上でお願いがあるのだ。どうか、どうか暫くの間我が娘を預かってもらえないだろうか。

 本当なら我自ら迎えに行きたいのだが、忙しい身の上で行けそうもない。勇者カズト殿の所なら安心していられるのだ。どうか、どうか頼む。お金の事なら心配いらぬ。娘を迎えに行った時、ご希望の金額を提示しよう。


 ━━━追伸━━━


 我が娘アリスよ、勇者カズト殿に黙って姿をくらましたら、どうなるか分かってるな?分かってるなら良いのだが………

 シャルよ、我が娘を頼んだぞ。もし、悪い事したなら遠慮なく怒っても良い。我が許す』


「………えっ!あのぉ~この手紙、偽物じゃないですよね?」

「本物です。我が主の筆跡と寸分違わず同じですので」


 えぇ~、それじゃぁ………この姫様と従者は暫くここに宿泊する事になるのか。まぁ後で宿泊費を払って貰えれば問題ない。が、一つ問題があるとすれば、期限が設けられていないことか。


「質問があるが良いか?」

「はい、暫くの間こちらにお世話になりますので何でもお答え致します」

「この手紙には"いつまで"と期限が書かれてないのですが?」

「それは………私にも分かりかねます。手紙に書かれてないのなら、我が主が来るまでという事かと」


 相手は最低でも貴族等の裕福な家庭ならば、リピーターになると相当な金になる木になるのは確実だ。

 ただし、今回はいつになるか分からんが後払いになるのは確定だが、しょうがない。

 ここで追い返したら勇者の威厳に関わるし、カズトの性格上それは有り得ない。

 しかし、この手紙の話し方に既視感を覚えるカズトである。


「はぁ~、しょうがないですね。それでは、宿客名簿にお名前をお書き下さい」


 ━━━宿客名簿━━━


 ・アリス・S・シドニス(姫様)

 ・シャル・シルール(従者)


「アリス様とシャル様ですね。レイラ、部屋へ案内よろしく」

「はーい、こちらでございます」


 部屋の鍵を持ったレイラの後ろを着いて行くアリスとシャル。二人が出て行った後、カズトは再度宿客名簿を見て首を傾げる。


「うーん、この名字………どこかで聞いた事があるような………」


 結局、思い出せず頭の奥に引っ掛かりを覚えながら他の客に料理を提供するのであった。


 ガチャン


「こちらになります。これが部屋の鍵になりますので、紛失にはお気をつけて下さいませ」

「うわぁ、広くて素敵な部屋じゃ」

「姫様、そうですね。宿屋でこんなに広い部屋はなかなかないですよ」


 部屋の広さは、ホテルで一般に知られてるランクでスイートルームが一番高いランクだが、そのスイートルームよりワンランク低いジュニアスイートというランク同等の広さだ。ベッドも二つ用意されており充分に広々と寝られる。

 試しにアリスがベッドにダイブするとフカッフッカで、まるで天使の羽に包まれると錯覚してしまう程だ。

 それは当然だ。この世界での技術では到底出来る代物ではない。まぁ魔法を使用すれば出来るかもしれないがな。もちろん、これら全部カズトの【異世界通販ショッピング】で取り寄せた物だ。

 それでも、結構な値段になったが王様から貰った王金貨で買ったから懐は全然痛くないし、全部屋の道具一式揃えても王金貨5枚ですんだ。それ以降、王金貨は封印してる。何故なら、金銭感覚がめっちゃ狂いそうだからだ。


「この布団………とてもフカフカフワフワなのじゃよ………すぅすぅ」

「姫様ったら………す、すみません。お見苦しいところを」


 あまりのフワフワ感で睡魔には勝てなくて一瞬で寝てしまったアリス。その寝顔は無邪気な性格から想像通りの可愛い。起こさないようにヒソヒソと小声で話す。


「いえいえ、満足してくださるなら私達どもも嬉しい限りです。こちらは鍵になります。そして、ご夕飯のお時間になりましたら、お呼びにします」


 部屋の案内と簡単な説明を済ますとお辞儀をしてレイラは厨房へと戻るのであった。




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