10食目、味噌汁とお刺身

「あなたは私達に何を求めてるんですか?こんな物を出して」


 いやぁ、あっはははは………本当にすみません。不可抗力ではないけど不可抗力なんです。

 厨房を見ると………ミミがこっそりとこちらを見てる。カズトが見てるの気がつき隠れやがった。その反応、知っててこれを作ったのか。後で問い詰めてやるからな。


「ミソもショウユと同じく我々の国に伝わる古文書にしか伝わってないんですよ。それを軽々しく出されても、嬉しいですけど反応に困ります」


 あれ?思ってた反応と違う?嬉しいのか。違うのか。良く分からん?


「あの~、それで怒ってるのですか?」

「いつ、怒ってるって言いましたか。嬉しいに決まってますが色々複雑なんです」

「うむ、そうじゃのぅ。我にも同じのを頼む」


 姫様あんたは水炊きを食べたばっかりでしょうが…………それに締めまでしっかりと。


「ひ、姫様!姫様は先程食したばかりではありませんか」

「ショウユとミソと聞いて………食べないと選択はないじゃろう」


 小柄なクセに以外と大食だな。角が生えてる事は鬼族オーガか。多少小耳に挟んだ話だが、鬼族は戦闘種族であるが大食でもあると聞いた事がある。


「ありがとうございます。ただいま、持ってきますので少々お待ち下さい」


 カズトはお客様にご注文されたら確実に出すのをモットーしてる。ミミがご注文を察知して早速調理に掛かりほんの数分後、お刺身定食が出て来た。


「来たのじゃ。さぁ食べるのじゃ」

「はっ、姫様の仰せのままに」


 従者の方が先に来ていたのだが、主である姫様より先に食べる訳にはいかないと待っていた。そのせいで、ご飯や味噌汁が冷めてしまった。


「冷めてしまったでしょ。交換致します」

「いえ、結構………です」


 断る前にカズトの後ろにはお盆を持ったドロシーがスタンバっていて、お盆の上にはほかほかのご飯と湯気が立ってる味噌汁が乗っていた。これを見た従者はもう何も言えず、ただ交換されるのを待つのみである。


「ご安心下さい。こちらはサービスですので、お代金は頂きません。それでは、ごゆっくりお召し上がりを」


 そう言ってから厨房に下がり、従者と姫は同時にお刺身定食を食べ始めた。見た目は腐ってる風に見えずまるで宝石のようだが、それはどうとでも誤魔化しはきく。問題は食べてからだ。


「早よう、早よう食べてみるのじゃ」

「………では、いざゆかん」


 従者はシェールでお刺身を食べた事はもちろんあるが、何も浸けずに味気ないものであった。お刺身の種類によってはあたってしまい寝込んだ事もあって、従者にとってお刺身を食べる事はトラウマ化してる感があり勇気のいる事である。

 姫様の方は従者と違って貴族や王族等の高位の方らしく名前は聞いた事はあっても見たことも食したこともなく、不安より好奇心の方が勝っているのか目がキラキラと早く食べたくてしょうがない感じだ。


 ヒタヒタ


「おぉ、これは………舌の上でトロケテ美味しいのぅ。シェールでも魚捕れるのであれば食べたいのぅ」


 姫様はマグロの赤身を醤油につけて食べて気に入ったようだ。その様子を見た従者はホッと安堵して自分のを食べた。


「………!!これは………美味しいです(今まで味わった事のない………これを食べればわかる。シェールのはクソですね)」


 従者も気に入ったようだが、ここをシェールの同僚に見られていたならクビだろう。

 下手すれば処刑になっていたかもしれない。何故なら、姫様の食す物を毒味しないばかりか姫様が先に食べさせ、自分は後で食べたのだから。まぁ罪は黙っていれば罪でないのだ。


 ごくごく


「このミソシルとやらは何かホッとするのぅ。これがミソの味なのか。味わった事ないのに、何処か懐かしい感じてしょうがない」

「えぇ本当に………こう忘れてる記憶が目覚めるような………それに、具材のトウフやアブラアゲとやらもミソシルと合って何杯でいけそうで………ズズズゥゥ………ふぅ、本当に美味しい」


 厨房から密かに覗いてたカズトは二人が満足したような様子に心の中でホッと安堵とガッツポーズする。


料理長シェフ殿、お勘定を良いだろうか?」


 うん?えっ!もう食べたのか!人間とは違い食べるのも早いな。何の種族か気になるが、シェールと言えば鬼人族オーガが支配する国だったはずだ。実際、行った事ないから曖昧だが………


「はい、こちらになります」


 カズトが伝票を渡すと従者が驚愕する。余りに高いのではなく、安いからだ。カズトがいた日本では標準的な値段設定より少し高目なのだが、この世界では安いのだ。


料理長シェフ殿、これは何かの間違いでは?余りにも安すぎです」

「いいえ、間違いありません。この店ではこれが普通でございます」

「そうですか………では、お支払を」


 従者からお金を貰い、ちょうど御釣りもなくぴったりな代金を頂戴した。代金を支払ったとこで姫様がこんな事を口にした。


「のう、ここは泊まれるのかのぅ」

「はい、御宿泊お出来になります」


 肯定したところ姫様の瞳がキラキラと「それは良い事聞いた」と口ずさみ頷く。従者はイヤな予感がしたらしく冷や汗をかいている。その予感は当たってしまった。


「今日はここに泊まろうかのぅ」

「姫様!それはいけませぬ。我が主も心配してるはずですので━━━」

「えぇい、クドイぞ。妾が泊まると言ったら泊まるのじゃ。心配ならお主の術で知らせれば良かろう」


 魔法の事をシェールでは術と呼んでるのか?日本と似てると聞くし一回は行ってみたいものだ。


「わ、分かりました。そこまで言うのであれば………ちょいっと失礼つかまつる」


 従者は両手で何やら変な事を始めた。昔、日本で見た漫画の中で登場する忍者が文字通りに術を使う際にやる"印"というものに似ている。

 従者の動きが止まったところで床からボンっと煙が少し舞うとそこにはカラスがいた。これは召喚魔法ならぬ召喚術というものだろうか。

 召喚されたカラスの足首に細く折った紙を巻き外に飛ばした。カラスは何の迷いもなく空を羽ばたき行ってしまった。


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