第80話 似たもの姉妹


「可憐おかえり〜遅かったね」


「あれ、お姉ちゃんまだいたの?」


始業式を終え、明日からの実力テストに備えて学校で勉強をしてから帰宅したところ、朝見たお姉ちゃんの姿がそのままあった。

そういえば、私の登校に合わせて後ろから当然のように着いてきていたのは流石にやめて欲しかった。ただ、コンビニに入って以降はお姉ちゃんの姿が見えなかったので、その後どうしていたのかはわからない。


「私も今戻ってきたところだよ」


「どこかに行ってたの?」


「ファミレスとスーパーと亮くんの家」


ファミレス…なるほど。私も亮さん達と数回ほど足を踏み入れ、注文も完璧にできるようになった場所だ。

スーパー…こちらも同様に初めて足を踏み入れてから、幾日が経っただろうか。コンビニ以外で買い物を行うことができるようになった場所だ。

亮くんの家…亮さんの家…?

…知らない。どこにあるのか、どんな部屋なのか…何も知らない。


「亮さんの家…」


ポツリと呟いた言葉に反応したお姉ちゃんが、ニコニコした笑みを浮かべながら私の次の言葉を待っているようだった。


「私も行ってみたいな…」


「うん。じゃあここだから」


そう言うとお姉ちゃんはスマホの画面をこちらに見せ、何かを指し示していた。


「えっと…住所?」


私の問いかけに頷いてから立ち上がり、私の隣に腰を下ろした。


「ちなみに、私は突然押しかけたけど家に入れてもらえたから、行きたければ明日にでも行ってきたら?」


「お姉ちゃん…せめて連絡くらいしたほうが…」


お姉ちゃんが非常識なのか、それとも私が遠慮して亮さんの家を尋ねることを諦めると踏んで、気を遣っての発言なのか。

恐らく双方とも的中していそうだ。




「可憐、今一番好きな人って誰なの?」


「え?…お姉ちゃんかな?」


パッと頭に浮かぶ…というよりも目の前にいるお姉ちゃんが目を通して脳に、そして口から言葉となって出てきた。


「もう、可憐たらっ!…じゃなくて、身内以外でね」


あぁ…。


「…」


「いない…ってわけじゃないよね。もう分かりきってたけど、やっぱりそうなんでしょ?」


「えっ」


「顔に出てるよ?…あれ、私もそんなこと言われたっけ。やっぱり姉妹なんだなぁ…」


お姉ちゃんが一人で納得して一人で感慨にふけっていた。

私には何が何だかわからないが、お姉ちゃんが私の思い浮かべた人物のことを理解していることはわかった。


「そんなわけだから、勇気出して行っておいでよ。明日…とは言わないけど、亮くんが暇な日にでも」


そう言いながら、腰を上げて帰ろうかというお姉ちゃん。


「名前分かってるならわざわざ出さなくてもよかったよね?」


やっぱりバレていたようで、意地悪なことに名前を出してきた。意地悪…というよりは私に発破をかける意味だったのだろうが。


ただ、先程お姉ちゃんが言ったように、私が顔に出やすいならばお姉ちゃんも顔に出やすいわけで。


「お姉ちゃんはいいの?亮さんのこと好きなんでしょ?…その、なかなか渋い顔してるけど」


「そうだけど、可憐のことも好きだから。可憐に後悔してほしくないんだよ。それに、姉妹で一人の男を奪い合うってラブコメ作品とか昼ドラみたいで面白そうじゃない?」


「昼ドラみたいな展開は嫌だなぁ…」


結果も大切かもしれないが、過程だって大切なわけで、昼ドラみたいな過程が泥沼のような展開に私たちはなりたくない。

でも、私とお姉ちゃんがそういう風になるとは思えない。


「可憐、昼ドラなんて観るの?」


「この前観てみたの。亮さん達と一緒にいるとそういうドラマの話を耳にすることがあったから…夏休みの間にちょっと観てみたんだよ」


「可憐、お嬢様って感じが結構抜けてきたよね。昼ドラ観てるお嬢様なんていないよ」


「そ、そう?私は私のままだと思うけど」


「あ、そうそう。今度、亮くんと二人で旅行に行くことになったんだよね。それじゃあ、また来るね」


「…え?」


最後になかなかパンチのある発言を残して私の部屋から飛び出していった。

二人きりで旅行…。

私も誘ってみようかな。




「ごめん、さっきお酒飲んじゃったから今日も帰れなかった」


「通りでちょっと顔が火照ってたの?…夏だから暑いせいかなって思ってたんだけど」


今日は一人で考え事の整理でもしようかなと、翌日に実力テストを控える学生とは思えないことを考えていたのだが、今日もお姉ちゃんがウチに泊まるようなので、考え事はやめ勉強することに決定したのだった。





「可憐この前学年一位だったんでしょ?すごいね〜」


寝る前のおしゃべり。

昔を思い出すなぁと思いながら会話のやりとりをする。あのときは、私がお姉ちゃんのベッドに入り込んでいたのだが、今は逆に。


「ありがとう。でも、たまたまだよ?この前は入学試験で首席だった子が試験受けてなかったみたいで」


「私、勉強はさっぱりだったからなぁ。エスカレーターで高校大学まで行った私は可憐に頭が上がらないよ」


「勉強が全てじゃないでしょ?それに、世間の一般常識だったら私はお姉ちゃんに及ばないし」


「でも、その差も結構なくなってきたよね。可憐って本当努力家だよね」


「それはお姉ちゃんもでしょ」


気づけば短針がベッドに入った時から次の数字に到着しそうになっていた。


「私明日すぐ帰らないとだし、もう寝よっか。おやすみ可憐」


「うん、おやすみお姉ちゃん」

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