psi trailing

容原静

一景

一景


BGM『ダンテライオン』

舞台美術 シロツメグサまみれ。真ん中にひまわり

座る五十嵐

膝に玉村が寝転んでいる

五十嵐と玉村が手を握りあっている


五十嵐 むかしむかし。あるところに寂しいおじさんがいました。おじさんは一人で仕事をして一人で暮らしていました。おじさんは孤独で寂しい思いをしていましたが、周りにはおくびにもだしませんでした。ある日おじさんが寂しい思いをしながら夕ご飯を食べているときに玄関のドアを叩く音がします。おじさんは面倒くさいので無視しました。しばらくすると止みました。またしばらくすると音がしました。また無視します。今度は一向に止みません。仕方がないのでおじさんは扉を開けました。扉の前にはひもじそうな男が涎を垂らしながら辛そうな表情でおじさんを見つめます。男は言いました。『恵みを』。おじさんは厄介ごとは嫌いなので扉を直ぐに閉めました。それでも扉は叩かれます。仕方がないので明日の昼ごはんに置いていた夕食の残り物を分け与えました。男は涙を流しながら玄関前で残り物を平げました。またある日、おじさんが一人で家にこもっていました。おじさんは寂しさで気が狂いそうになっていました。昔、両親から愛されていたことを思い出し涙を流していました。扉を叩く音がします。おじさんは無視しました。一向に止む気配がありません。仕方がないので扉を開けるとあの男がいます。男は言いました。『ハッピークリスマス』。男はケーキを持っていました。『あの日のお礼です』。おじさんはつっけんどんに追い返そうと思いながらも男を中に入れてしまいました。おじさんは本当のところ嬉しくてたまらなかったのです。『そうか。クリスマスか。忘れていたな』。おじさんは何十年ぶりにクリスマスを楽しみました。おじさんは少し満たされました。それからおじさんは少し周りの人にも柔和になり、愛されるおじさんとなって生涯を送ったそうです。おしまい。

玉村 よかった。よかった。

五十嵐 ね。

玉村 ねぇ。

五十嵐 なに。

玉村 また逢ってくれてありがとう。

五十嵐 こちらこそ。

玉村 私たちどうなるんだろう。

五十嵐 なるようになるさ。

玉村 大丈夫。貴方は天国へ行くわ。

五十嵐 地獄さ。

玉村 私についてきちゃだめ。

五十嵐 別にいいだろう。

玉村 運命から逃げないで。

五十嵐 敷かれたレールなんて外れるもんさ。僕こそ君とまた逢えてよかった。

玉村 ずっとあなたを探していた。

五十嵐 もう二度と君を手放さない。

玉村 死んでからはもうずっと一緒。


二人抱きしめ合う

キスをする

燃える音


暗転

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