第十四話 ~ヒデヨシ・ハシバ準爵~
グリムウェル、ローレンタールの邸。
今夜は特別な会食がここで開かれていた。
邸で一番大きな部屋を開け、国家グリムウェルの貴族達がここへ集まる。
「おめでとうヒデヨシ・ハシバ準爵」
オーガスト伯爵がワインを手に、ヒデヨシに声をかけた。
「気が早いですよオーガスト伯爵」
「何を言う、もう一時間もしないうちにローレンタール伯爵から発表があるんだ」
「今から呼んでもいいじゃないか」
オーガスト伯爵は、満面の笑みでヒデヨシの肩をたたく。
「それに推薦した私の鼻も高いというものだ」
「私が爵位などと、推薦頂いた事はうれしく思いますが、責任を感じてしまいます」
「ラボの運営に、経済発展への多大なる貢献」
「グリムウェルとクロストの交易は大成功だったじゃないか」
「ほかの貴族など、私が黙らせてやろう」
ローレンタールが、綺麗な女性を連れて二人のところへ歩く。
「オーガスト様、あまりヒデヨシさんを困らせないでやってください」
ロイがオーガスト伯爵へ声をかけ、女性がそれに続く。
「そうですわ、ヒデヨシさんもこのような場は慣れていないのですから」
美しい壮年女性、ローズマリーに似たその女性は、ロイと腕を組んでいる。
「貴族の方々との宴席は緊張してしまいますが」
「リリーアンヌ様、私はこれでもラボでのパーティーは出席しているんですよ」
「うふふ、この人が酒場のアリスタ主催の宴席に呼んでくれと嘆いていたわ」
薄青いドレスを広げ、リリーアンヌはロイを引き寄せた。
「そんな、ローレンタール様をお呼びできるような宴席ではございませんよ」
「残念だなヒデヨシ君、僕はこれでも庶民と触れ合う領主として良くやっているつもりなのだが」
事前に示し合わせたとはいえ、ロイの口ぶりはぎこちないものだった。
「めっそうもございません、高貴な方をお呼びできるほどの宴席を用意できないと思いまして」
「お呼びしてよいのであれば、いつでもお呼びさせていただきます」
「そうだな、声をかけてくれたまえ、時には酒場で飲むのも良いものだ」
事前に示し合わせたとはいえ、いつものロイが染み出していない事を願うばかりだ。
「ヒデヨシ様~」
大きな耳が揺れ動く、可愛らしい獣人の子供はヒデヨシに向かって一直線に走る。
「リーリール君、楽しんでるかな」
ヒデヨシは、抱き着いてきたリーリールを受け止めた。
「ローズマリー様にお聞きしました、盗賊討伐の時のお話」
「ああ、あの時の事かい」
「はい、魔光石にあんな使い方があるなんて、僕感動しました」
「私はやり方を考えただけで、魔光石の使い方も制圧も私の力では無いよ」
「その、僕は、的確な判断で制圧を指揮したヒデヨシ様がかっこいいと思います」
「それと、僕の事リールって呼んでください」
「親しい方は、みんなそう呼んで頂いています」
「わかったよ、リール」
そう答えながら、ヒデヨシはリールの頭を撫でた。
「リール、ヒデヨシ殿にまずちゃんとご挨拶なさい」
後ろから声をかけたダリス伯爵の姿勢は、変わらず綺麗なものだった。
「お父様・・・、申し訳ございません」
「ヒデヨシ様、リーリール・バーンシュタインです。本日は爵位の授与おめでとうございます」
小さなリールの小さなお辞儀、リールはそのままヒデヨシの腰に纏わりついた。
「ああ、ありがとうリール」
ヒデヨシは、もう一度リールの頭を撫でる。
「ヒデヨシ殿、私からも祝辞を述べさせてもらおう。爵位の授与おめでとう」
「ダリス伯爵様も、ありがとうございます」
ヒデヨシとダリス伯爵は、硬く握手をした。
「ヒデヨシ様、授与式の後は僕とお話ししませんか」
リールの目は相変わらず輝いている。
「リール、ヒデヨシ殿にご迷惑だろう」
「ダリス伯爵様、かまいませんよ」
ヒデヨシは、リールに目線を合わせてかがむ。
「リール、それじゃあ終わったら私のところにおいで」
「はい、すぐに参ります」
会場が静まり返り、主催のローレンタールに目線が集まる。
「それでは、本日までのヒデヨシ・ハシバの功績をたたえ」
「準爵の爵位を授与するものである」
会場から少しづつ拍手が始まり、全体へ広がっていった。
リールは憧れのまなざしを向け、一番大きな拍手をしていた。
ローレンタールは、ルシアから琥珀をあつらえたバッジを受け取る。
ローレンタールは、真っ直ぐヒデヨシの前へ進み、胸に爵位を示すバッジを付けた。
「おめでとう、ヒデヨシ・ハシバ準爵」
「ありがとうございます、ローレンタール伯爵様」
「これからもグリムウェルの為、私の微力を尽くす事をここに誓います」
もう一度、会場は拍手の音に包まれていた。
宴もたけなわ、ローレンタール邸へ集まった貴族たち。
彼らはそれぞれローレンタール邸を後にし、明日には自身の領地へ帰っていくのだろう。
ヒデヨシを掴んで離さないリール、ラボへの帰路を急ぐ犬車。
ヒデヨシとローズとリール、話しをする三人、気が付いたらラボのヒデヨシ邸前に到着していた。
リールの手を引き、親子のように歩く二人。
「ローレンタールよ、まさか本当にヒデヨシごときに爵位を与えるとはな・・・」
「あのようなたいした力もない、凡愚にお前はどうして心酔しているのだ」
ローレンタール邸、ローレンタールの私室、オーガスト伯爵が突然の言葉を吐き捨てた。
「あなたは何を言っているのです」
ローレンタールは、拳を握りしめ、声を荒げてオーガスト伯爵に詰め寄る。
「ヒデヨシ様を凡愚などと、あなたはあの方の何を知っているというのです」
「ヒデヨシ様・・・か、やはりそういう事か・・・」
オーガスト伯爵が笑みを浮かべる。
「何を・・・」
「公表すらできない召喚、ヒデヨシの頭脳は認めるが、奴は爆弾のようなものだ」
「お前が召喚を計画していたのはわかっていた、まさか本当に実行するとは思っていなかったが」
ローレンタールは、苦虫を嚙み潰したような顔をし、顔にはいつもの和やかなものは見当たらなかった。
「召喚など、何を言っているのです、僕がそんなことをするでしょうか」
「ヒデヨシが村の青年だとしよう、伯爵であるお前が、村の青年をヒデヨシ様と呼ぶのか」
ローレンタールには、これ以上の反論は出てくるようには見えない。
「お前の軽率な行動が、この国を滅ぼす事になると思わなかったのか」
「僕は、ヒデヨシ様がこの世界を変えてくださる方だと信じています」
「だが、ヒデヨシはエドガー様にも、アザゼルにも勝てないのだろう」
ローレンタールは、押し黙ったまま歯をかみ合わせている。
「奴にどんな才能があろうと、殺されるのであればただ国を危険にさらすだけだ」
「なんの才能も無ければ隠し通す事もできたのだろうが、奴の功績は必ずエドガー様の耳に届く」
「最低限怪しまれないため、ヒデヨシの爵位授与を押したが、忘れるなよローレンタール」
「私たちは、国を滅ぼしかねない爆弾を抱えている事を・・・」
ローレンタールの私室には静寂が訪れた、オーガスト伯爵の結論が覆ることはない。
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