もう爆発はいらない

sitsuki

もう爆発はいらない

 片思いの相手に告白し、そして振られた帰り道。僕は夕日が淡く照らす道を一人で歩いていた。やがて信号が現れ立ち止まったところで、夕日を見上げて夕日は温かくて優しいなあなんて詩的なことを考えていると、


 背後で爆発が起こった。


 振り返る。


 赤い髪をツーサイドアップにした自分と同い年くらいの、自分よりも少し背の低い女の子が一人、今にも殺しそうな鋭い目つきで僕を睨んでいた。


 もう一度言おう。僕を睨んでいた。


 は、と僕の口から疑問の声が漏れ出す。

 すると、女の子は口を開いて、


「何がは、よこのリア充が爆発しろもう夕暮れの道を物思いにふけるように歩いちゃってさぞかし彼女さんと楽しくデートして来たんでしょうね爆発しろ!」


 なんかめちゃくちゃ早口で僕のことを怒鳴ってきた。

 僕はあまりのことに凄いぽかんとしてしまった。

 すると女の子はそれを見て惚けていると思ったのか、


「何ぽかんとしてるのよこれだからリア充は爆発しろ僕は大したことないとか言うんでしょ――」

「まってまって」


 なんかまた始まりそうだったから思いっきり止めた。


「何よ。私はあんたみたいなリア充が嫌いなのよ」


 誤解だ。思いっきり誤解。むしろ今僕はリア充から最も遠いとこにあると言っても過言ではない。なぜならついさっき振られたところだから。あれなんか今更涙出てきた。

 ともかくとりあえず女の子の誤解を解こうと今振られたということを伝えると、


「あ、あの、ごめんなさい、えと、あの、べつに傷つけようと思ってるとかそういうわけじゃなくて、えと、ごめんなさい!」


 すごくあわあわしながら謝られた。その様子を見て僕はちょっと可愛いな、なんて思ってしまった。いや僕は好きな人がいて今告白したところだったんだけどな、と思い勝手に少し気まずくなってしまったので、その気まずさから脱しようと女の子に質問をすると、


「ちなみにさっきの爆発は何だったの?」


「えっと、あれは私の力で。私は友達が多い方じゃなかったから、リア充爆発しろっていつも思ってたら、リア充を見たら爆発が起きるようになったの。あ、あの、でも、怪我をすることはないんだけど!学校でも爆発が起きちゃって、あんまり学校に行けなくなっちゃって…」


 とても悲しいカミングアウトをされた。少し同情するような気持ちになって、僕と友達になろうよ、なんて言ってみると、


「え、いいの!…私、なんにもできないけど、それでもいいの?」


 満面の笑みで承諾された。すごく可愛かった。ついでに自分のさっきのセリフを思い出してすごく恥ずかしくなった。その両面から顔を少しそらしながら僕は、


「また明日さ、あの先の公園で遊ぼうよ」


 と言った。

 そしてその僕の言葉に対して女の子も、


「また明日ね!」


 と、花が咲くように笑った。




 時は経ち一ヶ月後。

 今日も僕と彼女は、公園で二人遊んでいた。今日僕が学校であったこと、彼女が今日見た面白かったもの。そんな他愛も無い、されどもとても楽しい話をしていると、公園の入り口に一組のカップルが現れた。

 そのカップルを見て、僕はまた爆発が起きるんじゃないかと身構えた。怪我はしないと言われているし、彼女のことは信用しているのだけれども、身構えてしまうのは仕方ないと思う。

 けれど、爆発は起きなかった。


「あれ?爆発しない?」


 そう彼女は小首をかしげた。そんな彼女はすごく可愛かった。そして、なんでだろう、と首をひねっている彼女を見ていると、僕はその理由に思い当たってしまった。


 だけど。


 僕と友達になってリア充を憎む気持ちがなくなったからじゃないかとは、あまりに恥ずかしすぎて言える気はしなかった。


 そして僕の本当の気持ちも、恥ずかしすぎて言える気はしなかった。


 おわり。

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