第42話 トビー


「サロンみたいなもんかね。変な勧誘とかされなかった」

「自然保護がどうかって人も居たけど」

「めっちゃ面白そうじゃない」

 アパルトマンの話を聞くとビッツィーはそう評した。

「何だか凄い集まりだったよ。学生ってあんなふうなの?」

「ピンキリ」

「テュールはピン? キリ?」

「毛並みは良い。服もお高い物だったわね。お友達の面倒もお金かかるだろうし」

「親御さんが貿易商だって云ってた」

「ふうん。それにしても羽振りが……」

「アイッアイッ」

 酔ったフランソワがベットでぐねぐね寝返りを繰り返している。酔っ払い特有の動きだ。

「お尻ダンスかな?」

「今の内に着替えさせてしまおう」

 パジャマを着せられながら、フランソワはケラケラ笑っている。


 作業が終わると、私はビッツィーへ云った。

「でも、やっぱり失敗だったよね」

「何が?」

「追われてるのに、あんな集まりに行っちゃったりして。ホテルの場所も知られたし」

 ビッツィーは取り上げた服をくるくる丸めて箱の中へ投げ入れた。よく分からないが蠱術で綺麗になるらしい。

「ノリコあのね。私たちは警察に追われるために生きてる訳じゃないのよ。向こうが勝手に追ってるだけ」

「そんな無茶な」

「私たちの行動は私たちの都合で考えなくてはいけないわ。何が失敗だったかじゃなく、何をたいかで話し合いましょう。テュールの所へ遊びに行きたいなら行くべきよ」

「え、行きたくない」

「あ、そう。でも興味はない?」

「……あんな風に、誰とでも友達みたいに話せるってどんなのだろう、っては思う」

「じゃあ決定ね。私も興味あるし明日は三人で訪ねて行ってみよう」

「ええ……」

「苦手と嫌いも違う物よ。苦手を克服すれば好きになるかも知れないじゃない。やってみるべきよ。他には何か琴線きんせんに触れるような事は無かったの? 気になる男の子とか居なかったの?」

「いないよ」

 私は少しだけトビーの事を考えた。彼だけは他の男の子みたいに、怖くなは無かった、と思い返しただけだったけれど。

「ヌアイッ」

 フランソワが眠ったままでお尻を蹴ってきた。

「えっ何で?」

 

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