第35話 ネットワーク
「宿をとる前に、持ち物をお金に換えるわ」
そう云ってビッツィーが売りに出そうとしたのは、クラウス家から失敬してきた貴重品の数々だった。
「盗ったの?」
「有効活用といって欲しいわ」
「フランソワの前でそれはちょっと」
しかし当のフランソワはケラケラ笑ってネックレスを引き千切ったりしている。
「フランソワ、ほら」
ビッツィーが高価そうな絵画を差し出すと、
「アイッ!」
フランソワは嬉々として一撃。手刀で絵画を突き破った。更に腕を振るって額縁を放り投げると、それが空中にある内にキックでバラバラにして仕舞った。
「アアィ」
フランソワは満足してカンフーのポーズで
「お上手! フランソワ物を壊すのがお上手」
「フランソワが良いんなら良いけど今壊す必要あったかな」
やはり私と令嬢では価値観が違うのだと納得しておいた。でもやっぱり壊す必要はなかったと思う。
横柄な態度を取るフロント係のお尻に、フランソワはキックを打ちこんだ。
「バイトね。あれは。あんまし良い宿じゃないみたい」とビッツィー。
ホテルの善し悪しは私には分からない。内風呂もご飯もあるし十分だと思う。
三人で眠る部屋とは別に、ビッツィーは魔術式の研究用にもう一室借りた。そこで車の燃料を造ったりするのだと云う。
もう休みたかったのだが、フランソワは着替えを嫌がった。
「フランソワ、いい加減着替えないと臭くなるって」
「んんんんんッ」
カルベリィを出てからずっと、レプリカの制服を離そうとしないのだった。
結局、レプリカの代わりに私の制服と交換する事でフランソワは納得した。
「まあ、さすがにその服は目立つかもしれないわねえ。でも地味なのよりかはずっと良いわ」
ビッツィーは気にしていない様子だった。
「良くないよ」
と私は云った。私たちは逃亡者なのだ。
カルベリィを出て数日、その間、私は借馬屋 《しゃくばや》、パーキングエリア、船内で情報を
新聞はもとより、この世界にも電話やテレビがあった。
ただ、それらの設置場所は、
文明はあるものの、
色々調べたが、今の所カルベリィの事件はニュースになっていなかった。
おかげでホテルにも泊まれた訳だが、私は不安だった。
「慎重にいかなきゃいけないんだよね」
「平気、平気」
ビッツィーは暢気にしていた。
湯上がりのお酒を飲みながら、
「まあ気をつけるべきは、神殿のネットワークかな。神殿の近くにはあまり近づかない方が良いわ」
ビッツィーはフランソワを
この世界の街同士は魔術式のネットワークでつながっている。
「神殿は、魔術式のネットワークを
ビッツィーはそう云った。以前聞いた話ではハイテク技術の集まりだと云う事だった。それは通信技術のことなのだろうか。
「……NTTみたいなもの?」
「得ぬ? まあ兎に角、通信の維持も神殿の大きな役割の一つな訳ね」
「神殿って各地に在るの?」
「めっちゃ在る。その各地の神殿同士を術式でつないで情報をやり取りする」
「それが危険?」
「問題はね、神殿みたいな重要機関には、魔術式を感知する機能が備わってるって事よ。この近くで魔術を使うと、探知される。其れが違法な魔術式だったりしたら、即バレちゃう。で、ネットワークで呼ばれた
「つまり、神殿の近くで醸造術を使ったら、そこにビッツィーがいるってバレちゃうということ?」
「まあ、探知を避ける方法は有るっちゃあ有るけど、やっぱり
「魔法使うことを『魔女る』っていうんだ……」
「特に、空間移動なんかはレアだし、規制対象だから絶対使えない」
「あの車?」
「そう。だから街の近くでは使わなかったでしょう」
「機械式だから隠してるのかと思ってた」
「それもある」
「盗品だしね」
「そう云えば、そう。兎に角、街中では車が使えないから、それは
「じゃあ、やっぱり街では大人しくしてた方が良いね」
この辺りで退屈してきたフランソワが、お尻ダンスを始めた。さらにビッツィーもこれに参加したため、残念ながら話し合いはしばらく中断となってしまった。
「さあ、ノリコも早く。ダンスダンス」
「アイッアイッ」
「なんか真面目にやってるのが馬鹿らしくなって来ちゃったな……」
ああ、後はサンプルを取られた事ね。ビッツィーは踊りながらそう付け加えた。
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