第24話 蔓延ビッツィー


 翌日、朝食事の席で顔を合わせたフランソワは、何時いつもと変わりない様子だった。

 昨夜の事を、せめて、軽蔑して逃げたのではないと説明したかった。しかし声をかける機会が見つからず、また如何どう説明して良いのかも分からなかった。

 一方ドイルさんは私とフランソワ両方の視線を避けていた。あの場に私がいたことに気付いたのだろうか。


「私ちょいと村へ下りて行くけれどノリコも一緒に来る?」

 部屋に居ると、今にもフランソワが訪ねて来そうで落ち着かない。私はビッツィーの誘いに乗った。

 村の市場周辺を歩いた。

「あなたも飲む?」

「いえ、私は……」

 ビッツィーは露店で買った果物を果実酒に変えて飲んでいる。

 昨夜の事はビッツィーにも話していない。フランソワの秘密を明かす事になってしまう。

「ビッツィーさん」

「ビッツィーさん。お願いします」

「はいはい。何時いつものね」

 村の人たちが次々に声をかけて来る。

 ビッツィーはその都度つど、彼らに蠱術醸造酒こじゅつじょうぞうしゅの小瓶を手渡してやるのだった。

 自前の果物を持ってお願いに来る人もいた。お酒を貰うのが当たり前になっている様だった。

 ビッツィーが彼らに見返りを請求する事はなかった。サービスが過ぎる様に見えたが、御領主さんに援助金を貰っているとも云っていたから、そこに酒代が含まれているのかも知れなかった。

 それにしても、少し宗教じみてきた様でもあった。

「うれしいです」

「ビッツィーさん、ありがとう」

 蠱術酒こじゅつしゅを受け取ると、村の人たちはその場で飲み始めた。

 小瓶を捧げ持ち、上を向いて、皆で喉を鳴らす姿は、森の植物の様でもあり、儀式の様でもあった。

 更に、これも一様の動作なのだが、彼らは蠱術酒こじゅつしゅを飲み干すと、如何云う訳か頭をぐるりぐるりと回し出すのだった。

 酔った人特有の仕草なのだろうと、私は素直にそう他なかった。

「誕生パーティーではもっと素晴らしいお酒が飲めるわよ」

 ビッツィーは満足気にそう宣言するのだった。


 この日も、フランソワとは話せなかった。結局、彼女との問題に進展があったのは、誕生パーティーの前夜になってからである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る