第94話

里長なのに普段はすることがないって、訳が分からん。

里の統括者なら、色々とすることがあるんじゃね?


俺が首を傾げてると、サマンサさんがな。


「普通は作物を育てたり、家畜を育てたりする方針を決めたりとかするわね。


 それとか交易したりした時の調整や、国に納める税の受け渡しかしら。


 里の整備を行うために、里人を指示することもあるかもしれないわ。



 人族ならね」


人族なら?

「ここは違うと?」


サマンサさんが頷き続ける。


「作物は、精霊魔術で作り出せるから畑などはいらないわね。

 各家庭で自由に日々作ってるわよ。


 本物ではないけれど、植物から肉や卵に魚介類も創れるのよ。

 本物がどうしても欲しい人は獲りに行くけど。


 だから食に対して里長が指示することはないわ。


 衣服や布製品に家具などの日用品も、植物を操り創れるし、家もね。


 敷地の整備も精霊魔術よ。


 里長は里を造る時に区画や道の配置など、里創りの基本方針を決めるだけ、それも里人と話し合ってね。

 それは旦那さまが中心で行ったわ。


 実作業は精霊魔術で行うから簡単よ。


 つまり、衣食住に関わる生活すべてが各家庭で完結するから、里長はすることがないって訳ね」


精霊魔術…パねぇっすわっ!


「でも交易の交渉とか、税を納めたりとかは?」

だよね?


「交易はしないかしら」

「それは何でですか?」


「だって、お金貰っても使い道がないわよ。

 私達が欲しい物を持ち込める商人が居るとも思えないわね。


 それに国と教会へ薬を卸す取り決めになったから、定期的に国の騎士と教会騎士が薬を受け取りに来るの。


 この自治領の税は代わりだけど、取り決め以上は金銭にするか、物にするかは交渉中ね。

 それは教会も同じよ」


んっ?

「それって、里長が交渉してたんですよね?」

だったら、里長は仕事してたじゃん。


「旦那さまに丸投げして、返答だけしてたわね」

ダメじゃん!


っかさぁ…

「ロンダルトさん?

 なんで里長になるのが嫌なんです?」

意味分からん。


「そりゃぁ、皆の代表って面映ゆいではないかね」

シャイかっ!


俺は溜め息を吐いて確認を。

「里長が行う仕事を確認しますね。


 まずは、里の危機を回避するのに尽力し、里人を導くこと。

 これは隣国にて襲撃を受けた際に、ロンダルトさんが里人を率いて撃退しつつ逃走に成功したと聞いてます。


 この里へ着くまで里人を導き、国と交渉して、この地を定めたのもロンダルトさんですよね?」


やはり頷くか。


「この度のマユガカ騒動で、戦士団を率いて動いたのもロンダルトさん。

 マユガカ討伐を直接殲滅している俺を支援しているのもロンダルトさんです。


 つまり、里の危機に対して里長が行うべきことを、すべてロンダルトさんが行っていますよ」ったら、呆けられた。


気付いとらんかったんかいっ!


「里の区画を決めたりなどは、本来は里長の仕事ですが…ロンダルトさんが行ったんですよね?」

「そうよ」

にっこり、サマンサさん。


「でぇ、国と教会との交渉内容を考えていたのも、ロンダルトさん…


 里長は仕事してなくて、里長の仕事を全てロンダルトさんが行っていたことになるんですが…

 既に里長ですよね?

 なんで、なるのが嫌なんです?」ったらな。


目を剥いて驚いてるよ。

目が零れ落ちそうなんですが。

いや、落ちてるか、鱗がね。


諦めが付いたのか、ロンダルトが溜め息を。

「道理で、皆が私を里長へ押す訳だ。

 そうか…私は里長の仕事をしていたのだな。

 我夢者羅に過ごしていたから、そんなこと、考えたこともなかったよ」


いや、気付けよ。

意外と抜けている所があるんだなぁ。


あららっ、話が長くなったため、朝食をお預けされたミーシャちゃんが、お腹を抱えて突っ伏してるよ。


苦笑いしたサマンサさんが、朝食を配膳してくれる。


いや、出来立てなんですが、なんで?

はいぃ?精霊魔術でキープしてた?

訳が分からんわっ!


なにかあったら、精霊魔術で済ませてませんかね?

っか、万能過ぎるんですが?


俺も精霊魔術が欲しくなったぞっ!

って、思った時、あのフレーズを思い出した。

『好き好き…』

あっ、急に萎えたわ。


やっぱり精霊魔術、遠慮しますです、はい。

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