第72話

マユガカ繁殖地を目指し、森を疾走する。

いや、樹上をってぇのが正しいか。


以前のように枝や幹を蹴りつけるようにして樹上を走る。

そうなると、モンスターとも遭遇しないし、障害物に邪魔されることもない。


空は抜けるような青空で、雲1つない。

小鳥が飛び交い囀ずる。


まるでピクニックだな。

前方でマユガカが小鳥を捕食しなければ、だけど…


まだ繁殖地から離れてはいるが、マユガカが繁殖地から離れない保証などない訳で…


うん、気配を消しつつ森の中を、樹上から確認したらさ、狩りの真っ最中でしたわ。


複数のマユガカが、様々なモンスターを無差別に貪っている。

血溜り以外は骨も残らないんですね、分かりたくなかったです。


こんなのが、大量に彷徨く繁殖地へ行く訳で…大丈夫か、俺。


俺の隠密行動は、気配消しが基本だ。

これは、ある一定の大きさを超えた生物に接触したら解けてしまう欠点がある。


蚊や蝿などならば接触しても大丈夫だが、マユガカのクラスともなれば、当然ダメだ。


そして、このマユガカ、ランダムに飛翔しており、その軌道は読めない。

速度はバラバラ、高度もバラバラ。

動きはランダムで、急旋回や急上昇に急降下、バックまでしてやがる。


1体や2体なれば、まだ対処可能だろう。

だが、数十体のマユガカが群れる地で、全てを避けて?

無理だろ、それ。


里長がディサピィルトーカーの鎧を手に入れてから向かうように言っていた理由が、これか…


いにしえの時代、ファントムナイトがマユガカ卵を手に入れたのは、ギャブのマユガカ牧場からだったらしい。

それでも犠牲者が出ていたらしいが、野生のマユガカ繁殖地へ向かうことを考えると、妥当だったのだとか。


いやいや、元々が、無理難題だったんじゃね?

ファントムナイトならばって、無理だからね!


こりゃぁ、纏いたくないが…纏いたくないんだがぁっ!

鎧を纏わなければ、詰むな。


またぁ、このパターンだよっ!

繰り返すなよっ!

飽きられるよっ!

需要ねぇかんなっ!


いや、最近、こんな思考が多いよな、俺。

疲れてんだろうか?


んっ?

取り憑かれてる?

なにに?


指輪と鎧に、取り憑かれて疲れてるってか?

誰が、上手いこと言えと?


っか、誰と話してんだろ、俺。

本当に疲れてるみたいだわ。


そんな阿呆なことを考えている間に、マユガカ繁殖地へと。


うっわぁっ、キモっ!

ウジャウジャいるんだが…

いや、この数って…ヤバくね?


他にも繁殖地があるんだよな。

森に住まうモンスターを食い尽くすほどの数に見えるんだが、気のせいか?


万が一、そうなれば…マユガカのスタンピートが発生すんぞっ!

ラウンドリムもだが、周辺諸国、いや下手したら大陸全土にて滅びる国が…


こりゃぁ、マユガカ卵って言っている場合じゃねぇっ!

早急に引き返し、どうするかを検討せねばなるまい。


俺は樹上にて踵を返し、里へと引き返す。

まずは里長の所だな。


樹上を走るならば、訳ない距離だ。

まぁ、走れるならだが。


ロンダルト邸を出て繁殖地へ行き、里長館まで1時間経ってないからな。


まだ朝の早い時間だが、気にしている場合じゃない!

乱暴にドアノッカーを打ち付ける。


慌てて現れた執事が尋ねてきた。

「これはダリル様。

 どうなされました?」っと。


「緊急事態だ!

 里長に至急会いたい。

 マユガカのスタンピートが発生するやもしれん!

 早急に相談したいので、取り次ぎ願いたい」


切羽詰まった感じで告げると、執事が青くなりながら。

「しばしお待ちを」って、去って行く。


しばらく後にメイドさんが現れ、案内を。

野郎に案内されるよりは、美女に案内される方が良いに決まってるかんな。


ちなみにエルフさん達は、人族基準では皆が美人さんです。

当然、男は美男子だがな、ケッ!


案内されて応接間へと。

昨日のリビングとは違い、色んな装飾品が飾られてんな。


他にも迎賓の間があり、高貴な 方々を迎えるために、綺羅びやかな装飾が施されている部屋らしい。

先王様達は、そちらで面会がなされたそうな。


ここでも肩が凝りそうなのに、そんな部屋はごめんだね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る