第63話
食堂へと入ると朝餉の良い香りが鼻腔をくすぐる。
知らない香りだが、なぜか郷愁を誘う不思議な香りだ。
「こちらの席へどうぞ」って、サマンサさんに案内されて席へと。
ロンダルトさんは紙でできた布状の物を眺めているのだけれど、なんだろ、アレ?
「んっ?
これは新聞っと言う物だ。
我々は精霊新聞と呼んどるな。
精霊が集めた情報を、新聞樹が作り出す紙へ色付き樹液にて書き付けておるのだ。
そこら辺の行程は、新聞樹と精霊に任せておるから、里の者は関知しとらんがな。
え~っとぉ、製本してない本なのかな?
紙面へ文章を綴り装丁した本は、それなりに出回ってはいる。
それは魔道具のお陰であり、庶民にも手が入る代物となってるんだ。
だけど娯楽品であり嗜好品あつかいの書物でも、それなりの値段がな。
専門書ともなると、庶民にとっては敷居が高い代物になるんだよ。
そんな本が装丁されて無いにしても、手軽に手に入るみたいなんだが…
本当に、ここは規格外な場所だなぁ。
「あなた、食事中ですわよ」って、サマンサさんがチクリと。
「ああ、すまん。
分かった」って、ロンダルトさんが新聞とやらを閉じてテーブル端へな。
そんな遣り取りを聞きながら、俺は困惑していた。
食事に手を付けない俺を気遣い、サマンサがな。
「お口に合わなかったかしら?」って心配してくれるんだが…
「そうでなくてですね。
フォークとナイフやスプーンが見当たらないんですけど…」
どうやって食えば良いんだ、これ?
みんなは、棒を使って食べてるが、あの棒ってなんなんだろうか?
「あら、失礼。
ダリルさんは、東方式をご存知なかったんですね。
直ぐに、カラトリーを用意いたしますわね」って、慌てて席を立って行ってしまったよ。
しかし…
「東方式ですか?」っと、つい口にな。
したらロンダルトさんがな。
「ダリルはヤマト領を知っているかね?」っと。
「まぁ、それなりには。
ラウンドリムに住んでいれば、耳に入りますから。
でも、なんでロンダルトさんが知ってるんです?」
燐国に隠れ住んでたんだよな?
「これのお陰で、色々と情報が入るのだよ」
そう告げて新聞とやらを指し示す。
「こけからの情報を纏めた本も存在しているんだ。
精霊の活動範囲内であれば、即日情報を知れるから便利なのさ」
いや、それって便利レベルじゃないっしょ!
「話を戻そうか。
東方式はヤマト領の食文化などをしめすもので、ヤマト領の前身である"日出ずる国"の文化らしい。
ヤマト領の者は政争に敗れ国を追われた者の子孫であり、ここラウンドリムへと流れ着いた流民の子孫でもあるんだ。
嘗てはラウンドリム内で覇権を争うほどの権勢を誇ったそうなんだが、今ではヤマト領に落ち着いてるみたいだね。
このヤマト領には武士や侍に公卿などが、宇天を奉じ纏まっているらしいな。
ああ、宇天って王みたいな者なんだけど、そう告げたらヤマトの者は激昂するらしいよ。
なんでも現人神らしいから。
そんなヤマト領文化っと言うか、"日出ずる国"の文化を称して東方式と呼んでいるのさ」
うん、ロンダルトさんご高説パートⅢが炸裂!
俺はサマンサさんからカラトリーを受け取り、食事を摂りながら聞きましたよ。
料理が冷めちゃうからね。
この料理はヤマト式らしく、ごはんと言う穀物を炊いた?物を、様々なオカズで食すらしい。
味噌汁と言う具入りの茶色いスープが美味かった。
豆腐は仄かに黄色く仄甘く美味いが、醤油というソースを掛ければ、更に美味かった。
何気にネギと鰹節と言う木屑が良い演出を。
魚を焼いた物や、様々な佃煮に香の物。
梅干しと言う酸っぱい物には仰天したが、ごはんが素晴らしく美味く感じたのにも驚いたよ。
カルチャーショックを受けた朝食だったわ。
食事を終えた後、俺はロンダルトさんにな。
「色々とお世話になりました。
ただ、世話になりっばなしもなんですし、俺ができることって、何かあります?」って尋ねたらさ。
「いや、君からは既に狩ったモンスターを譲り受けてるだろ?
あれだけの数と種類を揃えるのは、苦労するんだよ。
それを貰ってるんだから、気にしなくても良いさ」って、そんなことをね。
ロンダルトさんて…ええ人やぁ、エルフだけどね。
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