第61話

食事を終えて、寝るための客室へ案内される。


「今晩は、この部屋で休んでくださいね。


 我が家のお風呂は特別ですから、よろしければ、お入りになってください。


 もし入られるのでしたら、お風呂上がりには、この下着と寝巻きに着替えてくださいね。

 さきほど精霊魔術で植物精製した物ですので、差し上げますから」


よはど自慢なのか、圧が強いな。

ここは従っておいた方が無難だろう。


「そうですか、では、お言葉に甘えますね」って返すと…


「あなた、ダリルさんをお風呂場へ案内してさしあげて」って、ロンダルトを呼ぶサマンサさん。


力関係が、透けて見えるな。


呼ばれたロンダルトさんが、居間から出て来た。


「分かった、ダリル、こっちだ」って、歩き始めるロンダルトさん。

いきなり歩き始めたが、遅れずに着いて行くぞ。


しかし…けっこう広いな、この家。

精霊魔術で植物を操り建てたって聞いたけど、俺のアパートが襤褸屋に思えるぜっ!


しばらく歩き風呂場へと。

いやな、個人宅に男湯と女湯に別れて風呂が設けられているってさぁ、おかしいくね?


まぁ他人の家だ、とやかく言うまい。

扉を開き脱衣場へ…脱衣場?


銭湯へ行くと複数人が衣服を預ける脱衣所があるが…そうか…ここは銭湯だったのだな。

番台が無かったから気付かなかったよ、はははははっ。


ってぇっ、そんなぁ、訳ぇ、あるかぁぁぁっ!


ま、まぁ、まだ脱衣所だ。

まずは服を脱いで、風呂場へ行こう、そうしよう。


風呂場への扉を開けると…湯船が複数?

小部屋が風呂場にあるんだけど?

外へ出る扉もあるな。


もう、意味が分からん!


「どうかね、我が家の風呂は。

 素晴らしいとは思わないかね?」って、いきなりロンダルトさんに後ろから声を掛けられた。


居ることは気配で知っていたが、まさか入って来るとは!

い、いや、銭湯と考えれば、おかしくないのか?


「我が家は風呂に凝っておってな。

 色々と、取り揃えておる訳だ。

 だが説明して、どんな風呂か知らねば満喫できまい?


 だから解説してあげよう」って、ロンダルトご高説パートⅡが始まってしまったんだわ。

流石に入ったばかりの風呂場からは逃げられないかんなぁ。

諦めて聞くことに。


それでな。

風呂の湯だが、温泉っと言うものらしい。

地下深くにお湯が存在し、そこから汲み上げているのだとか。


その汲み上げなんだがな、幹の中が空洞になっている木を使用するんだと。

なにやら、おかしなことを聞いたんだが…


「その空洞の木の幹を地下の湯溜まりまで伸ばさせて、木の幹内へ湯を通すことで、汲み上げておるのだ」ってんだが…木が地下へ伸ばすのは根だよな。

幹じゃない筈なんだが?


しかもお湯を木の幹内の空洞へ通す?

しかも熱湯らしい。

いや、なぜ木が枯れないんだ?

普通は枯れると思うんだけど…


「精霊魔術だからだっ!」

いや、都合が良い魔法の言葉だなっ!


この温泉へは地面から様々な成分が溶け出しており、色んな効能があるそうな。


そんな温泉の温度違いの湯が複数の湯船へと流れ込んでいる。

掛け流しと言うらしいぞ。


他に薬湯と言う風呂があり、様々な薬草が湯船内へ生えていて、薬草成分が湯へ溶け出しているんだってさ。


って、待てぇいっ!

なんで湯の中で、薬草が枯れずに育つんじゃあっ!


「そう言う、薬草、だから」って…納得できるかぁ、ぼけぇっ!


「気にしたら負けだよ?」ってミーシャちゃんが…って、ん?


「ミーシャちゃん。

 なんで男湯に入ってるのかな?」

女の子は女湯だと思います。


「ミーシャ、小さいから、どっちに入っても良いんだよ」ってます。


ロンダルトさん、如何でしょうか?


「ミーシャが久し振りに一緒に入ってくれたゆえ、満足じゃっ!」

さいですか。


他には、湯船内へ泡が出る泡風呂に、湯船内へお湯が噴き出す吹き付け風呂とかある。


サウナてぇ熱い部屋は、意味が分からん。

露天風呂て言う屋外型の風呂は、外気が気持ち良く、癖になりそうだったよ。


これで全ての風呂に入った訳だ。

確かに気持ち良いから、ロンダルトさんが自慢するのも分かる。


だがな、明らかに個人宅に備え付ける規模の風呂じゃないからねっ!

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