第44話

さて、ユンファに頼まれてた食材でも買うか?

でも、買って帰った後が暇だな。


討伐準備は不要。

亜空間倉庫に物資も武具も揃っている。


って…なにか…忘れてるような…

あっ!

衣服と鎧の一式をお釈迦にしたんだったけか!


予備を身に付けて帰って来たが、替えはもうない。


斥候職用の特別な品でな、潜み易く、かつ、防御力もそこそこの品だ。

商店街の端、武具職人が集まる区域に、その店がある。


別に後ろ暗い所がある訳でもないのだろうに、裏通りの奥、一番目立たない場所にな。


いや、客の方が後ろ暗いか、目立ちたくない輩が多いのか?

なにせ斥候職御用達の店だかんな。

素人は立ち入り禁止だったりする。


そら、暗器や毒物に罠など、穏やかではない品がな。

制式な紹介でも、本人が斥候職ライセンスを呈示しない限り入れない。

斥候職以外は、お断りってな。


間違っても犯罪者へ売ってはならない品がな多い。

なので国軍よりガードが送られてるほどなんだわ。


なにせ領軍斥候職だけでなく、国軍斥候職も買いに来るからな。


各領ごとに、その地で得られる品を用意してるから、それ目当てに訪れるのさ。


っと、着いたか。

相変わらず人がいない。

っかな、気配を消すのが上手いな。

まぁ俺には丸分かりだが。


常連の俺は、無造作に店へと。

入り口に居る店員が俺を見てな。


「あっ、サイガの兄貴!

 チース!

 今日のご入り用は何で?」っと、にこやかに。


騙されてはならない。

コイツも一流所の斥候職であり暗殺者。

裏の仕事にて悪人を専門で狩ってたりする。


なぜか俺に懐いてんだが、訳が分からない。

まあ、害はないから良いんだが…納得はしねぇよ?


「いやな、鎧が一式パーになっちまってなぁ。

 予備使ってんだが、新しく購入しとこうかなってな」


そう告げたらな、ニコニコしていた店員の笑顔が引き攣る。

うや、どったの?


「兄貴さぁ~何したの?」ってな。


なんだろね?


「いや、特別なことはしとらんが?」


最近あった特別なことかぁ…ユンファに夜勝てるようになったこと?

違うか?


「兄貴の鎧は特別製ですぜ。

 パーになるって、なにしたんすか?」って呆れるからさ、鞄からボロボロになった鎧を出してみた。


「いや、マジでぇっ!

 店長ぉっ!」


いきなり叫ぶなやっ!


「なんじゃ、騒々しい。

 んっ?

 サイガか?

 なんで、そんな所に突っ立っとるんじゃ?

 奥に入れ」って店長がね。


したら店員くんがさ。


「店長ぉっ!

 これっ、兄貴の鎧っす!」って、俺のボロボロ鎧を店長へと。


「なっ!

 サイガ!

 体は無事なのかっ!」って慌てる。

良い人だなぁ~


「店一番の上客をぉ失ったらことじゃっ!」


前言撤回で。

こん、くそ爺いっ!


「大丈夫だ、怪我も後遺症もない。

 それより、新しく鎧と衣服が欲しくてな。

 一式を5組ほどあれば有り難いんだが」


したらな、マジマジと、俺を見やがるんだが…爺いに見つめられる趣味はねぇっ!


「5組は無理じゃ。

 3組は店にあるが…2組で勘弁してくれんか?

 特注品ゆえ、注文してからの入荷に時間が掛かるでな。


 しかし…アラクネ糸とミスリル糸にプラティオン糸の複合糸で造られた布製衣服が、ボロボロじゃと?

 オルハリコン製の鎧が…

 これらが、この状態なら、装備しとった者は粉微塵じゃて。


 なんで生きとる?

 まさかモンスターが、化けとらんよな?」


なんてぇこと言いやがる、クソ爺いっ!


「モンスターが町へ入れるかぁっ!

 結界で弾かれるわっ!」

「冗談だて」


冗談でも質が悪いわいっ!


ちなみにテイマーが使役するモンスターは、町外のモンスター牧場へ預ける決まりになっている。

なにせ結界にて弾かれるから、町へ連れ込めないんでな。


そんなモンスターを預かる牧場は、休日には観光スポットとして賑わってんぞ。

今度、ユンファの休みにでも行ってみるかね。


まぁ、なんとか予備の衣服と鎧を購入。

矢も各種大量にな。


「しかし…変わったマジックバッグじゃな。

 見たことの無い型じゃて。

 何処で…っと、詮索はヤボじゃったの」


カモフラージュ用の鞄をマジックバッグに見立てて使用してたのだが、違和感があったみたいだ。


まぁこれ、普通の鞄だし。


実態は右人指し指の指輪だかんな。

このタイプは知られてない。

俺も知らなかったしな。


知られたら騒ぎになるから、教えてあげないよ。

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