第34話

仕事終わったことだし、帰るべさ。

っうことで、気配を絶ち賊アジトを後に。

隠密隊の前で気配を消すのは初めてだったため、姿が消えたと仰天してんな。

いや、今、アナタ方の前に、居るの、ってか!


顔の前で手を振ってあげる。

バイバイってね。


洞窟を出て飛竜の真ん前を横切りながら移動。

飛竜たん、気付かんのね。

野生を失っちゃ、ダメだぜよ。


うんなん思いつつ疾走へと。

風が気持ち良いね。

風切る音はしない。

これだけ速ければ、環境にも影響するはずなんだが、風が舞うことすらないな。


岩山へ跳び上がり、岩山から岩山へと跳び移りつつ疾走。

岩石地帯を抜け、いくつかの丘を走り抜けて草原へと。


どこから現れたのか狼が馬車を狙ってる。

護衛が馬車を守り戦ってんだが…邪魔。

素早く狼を切り裂きつつ通りすぎる。


護衛達は、突然狼達が倒れ困惑。

狼達は自覚することもなく、こと切れる。

いわゆる1つの辻斬りですね。


んでな、町に着いたんで門前な。

門番達が、いきなり目の前に現れた俺に仰天ってな。


「うぉっ!

 って、サイガぁっ!

 ビックリさせんじゃねぇっ!


 っか、どこから現れたぁっ!」って、怒鳴るんです。

酷くね?


「いやさぁ、いきなり怒鳴らなくても…

 怒鳴る人、恐いんです」ったら、怒鳴った門番の血の気が、サァーっと、引いたんです。


でぇ、次の瞬間に真っ赤かってな。

「短気は体に悪いよ?

 血圧も上がるしさ。

 落ち着いて、落ち着いて」ってね。


「おまえがぁっ、言うなやぁっ!」


あや、逆効果?

おかしいなぁ?


「サイガ、もう良いから行ってくれ。

 こいつは、俺が宥めとくから」


困ったように言いながら、シッシッってするのは、どうかと。

まぁ、俺も暇じゃないしな。


「了解っす。

 んじゃ、お疲れっす」って、軽く敬礼して門を潜ったんだが…後ろで「がぁぁぁっ」っう叫び声が。


え~っとぉ…なにが、あった?

意味不明な叫び声が、理解できるとは思えんのでな、放置だ、放置。


さて、まずは報告だ。

マチルタ中尉が泊まるホテルへとな。


フロントでマチルタ中尉が滞在中かを確認。

現在、このホテルを拠点にして本部を設けているらしく、ホテルの会議室を貸し切りにして執務中とのこと。


連絡をお願いし、待つことしばし。

国軍兵士が迎えに来たよ。


以前の副官ではないな、別の美人さんだ。

うん、美人度が違いすぎるから、歓迎さね。


そんな美人兵にエスコートされて、マチルタ中尉の元へと。

入室許可を得て室内へ。


かなり忙しいのか、書類仕事中やね。


「ちょっと待ってね。

 これを仕上げちゃうから」

いや、素が出てますよ?


美人兵にソファを勧められたので座って待つことに。

紅茶を煎れてくれたので、飲みながら待ってると…


「待たせた。

 賊のアジトへ潜入との話だった筈だな。

 領軍と揉めでもしたのかね?」

そんなん言ってくるんですが、なんで?


「いえ、揉めてませんよ。

 どうして、そのように思われたのかは、分かりませんが…任務完了報告に来たんです」ったらさ、不思議そうに見られたよ。

なんだろね?


「はははははっ。

 冗談がすぎるよ。

 領軍野営地まで5日、そこから賊アジトまで半日だ。


 いいかい。

 移動だけで11日掛かるんだぞ。

 君に依頼したのが3日前だが…町を出たのは昨日だと、門番より聞いておる。


 つまり、移動を含め最低でも12日以上掛かる任務を、移動込みで2日以内で完遂したと、そう言うのだね?」


そのように言われたらさぁ、言葉では理解してくれないだろう。

なので、書類箱から完了証明書を出して、マチルタ中尉へと。

ついでに隠密隊が纏めた資料も添えてな。


いきなり渡された証明書と資料を、戸惑いながらも受け取ったマチルタ中尉が、それらに目を遠し絶句。

一応は嘘でないと、認識してくれたようだ。


「どうやったら…この短期間に、終わらせられるのかね?」って尋ねられたんでな。

「方法を明かすのは、ご容赦を。

 我々フリーランサーにて糧を得る者は、己の力量が全てにて、個人秘を明かすはタブーなのです。

 ご理解願いますれば」っと、願い出た。


まぁ、それに対しては、マチルタ中尉も理解してくれてな、追究は逃れられたよ。


んっ?部隊長との対応が違うってか?

そらぁ、マチルタ中尉は雇い主。

しかも美人さんだ。

むさい男とあつかいが違うのは、当然さね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る