潜む者

Kーヨッシー

第1話

「ふぅ、やっと着いたか…」

洞窟の入り口にて、そう呟いた俺の髪を、谷から吹き上がる風がなぶる。


「しかし…なんてぇ所にありやがる。

 見付からぇはずだぜっ」


知り合いから酒の席で譲り受けた地図を元に辿り着いた訳だが…そこは小高い山の上で、草が生えてはいるが岩ばかり。

地図では洞窟が存在するとなっているが、探せど見付からない。


まぁ、見付からなかったから、そのガセネタの地図を「酒代代わりにやる」っと押し付けられたんだがな。

俺も酔ってたから、深く考えずに受け取った訳だが…ガセと言われても宝の在りかを示すと言われる地図だ。

調べてみたくなるのが、人情てぇもんさね。


でぇ、実際に来てみれぱ、宝を隠したと言う洞窟など、まったく見当たらない。

こんなものかと諦め、探していた場所近くの広場より景色を楽しむことに。


広場の端が崖になっており、そこへ座ってランチってな。

まぁ本来は、こちらがメインな訳で…

1仕事終えての休養がてら、娯楽宝探しへと来たからには、山らかの景色でも眺めながら寛ごうってぇ趣向さね。


飯は屋体にて購入したバケットサンド。

具は焼いた厚切りベーコンとザワークラフト。

これへ特製ソースが掛かる。

オヤジ曰く屋体秘伝のソースらしいな。


これを葉野菜にて包んで売ってんだが…うむ、美味い!


包装用の葉野菜は食えるが、美味くないため破棄だ。

昔は勿体なくて食ってたものだが、我ながら贅沢になったものだ。

そう思い、ふと捨てた葉野菜を目で追うと…岩棚へ引っ掛かっていた。


あれ…降りれねぇ?

ふと、そう思い…崖を降りてみたら…ってな。

いやな、これ…崖を降りる技術がないヤツには無理だぞ。


俺は斥候系や狩人系の仕事をメインに生計を立てている。

だから辿り着けたと言えよう。


だが地図を寄越した知り合いは戦士系で巨漢。

身が軽いとは、お世辞にも言えないな。

無理に崖を降りようとしたら、滑落死だっただろうよ。


岩棚を探索すると、あっさりと見付かった洞窟。

おそらくは地図が示す洞窟で、間違いあるまい。


内部を伺うと、中より風が流れて来る。

洞窟内の何処かで、外に通じているのだろう。


「ふむ、風が強いな。

 ここでは臭い消しは使えんか…」


探索などを行う際に愛用している臭い消しは粉状でな、このように風が強い場所では吹き流されるために使えない訳だ。

だが、この臭い消しの効能は高く、猛烈な悪臭まで無臭化してしまうほどだ。

つまり隠密性が望まれる際には、臭いにてさとられなくなる訳だ。


しかも安価ときた。

いにしえの魔法文明が名残りらしいのだが、製法が簡単であり素材も入手し易いことから、見習いの調薬師でも作れてしまうらしい。

だからな、村の雑貨屋でも安価に売られていたりする訳だ。


しかしな、身嗜みとして身に振り掛けるのが常識とされているのだが、色々と弊害がなぁ…


害がないこととしてはだ、間違って料理などに掛かると香りなしの料理へと…

無臭の料理てぇのは味気ない…いや、正直不味いわ、あれ。


臭い消しを誤って口にしても、体に害はない、ないが…しばらくは臭いを感じられなくなるため、探索における鼻が使えなくなるからなぁ。


それよりもだ、体臭などを臭い消しにて誤魔化すヤツらだが…臭いがしないために身を清めないため病気になり易いのだとか。

いや、今時は村にも公共の銭湯があるんだからよぉ、入れよなっ!


っても銭湯も只ではないし、それなりの値がする。

臭い消しに比べると高額と言えるから、貧しい者達はなぁ…


そして隣国のように上下水道が完備されてない場所では、道へ糞尿を放置しており、臭い消しが無ければ悪臭がな。

っても、臭いがしないだけで不潔であることには間違いない。

そのため、疫病が蔓延することも…


う~ん、臭い消しの問題っかな、使用する者の問題のような…


まぁ、それはさておき、入ってみるかね。

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