初めての依頼
第14話 ハウンドドッグ
~とある猟師SIDE~
世の中には、いろんな動物や魔物がいる。イノシシ、熊、ウサギ、鹿。それにサラマンダーやオーク。
それらを狩る必要があるとき、自分たちも狩られる可能性を考えなければならない。俺は山にいる時、一瞬だって警戒を解いたことは無い。一緒に狩りに行く猟犬、ハウンドも同じだろう。
だが、警戒していれば無事で済むわけでもない。どれほど油断せずとも、どれほど強くなろうとも、負ける時は負ける。死ぬときは死ぬ。
確かに理不尽ではあるが、それは全ての生き物に平等に与えられる理不尽だった。
「ハウンド!」
その日の仕事は、簡単なウサギ狩りだった。何でも最近、異世界からやって来た小僧が武功を立てたとかいう噂だったので、そいつに食わせる肉が欲しいとの依頼だったんだ。
だから俺は、数匹のウサギを罠で仕留めた。そして犬と共に、山を下りるはずだった。
「ハウンド、しっかりしろ!」
俺の猟犬は、帰り道で魔物に襲われた。最近ここらに出現するようになったと言われる大型のヤマネコみたいなやつ。キラーパンサーって名前だったはずだ。
「くそっ!」
そのキラーパンサーに、俺は矢を放った。顔面に矢を食らったキラーパンサーは、驚いて山の奥へと逃げていく。
「諦めた……とは思えないな。今のうちに逃げよう。走れるか?ハウンド」
くぅーん。
ハウンドが弱弱しく鳴く。
「おまえ、前足を食いちぎられたのか?」
ハウンドは、俺の方を見ながら、悲しそうな眼をしていた。
「……」
こういう時、見捨てて帰るのが正解だったんだろう。
連れ帰っても、助かるかどうかわからない。いくら猟犬にしては小型とはいえ、決して軽い体重ではない。そして一番大事なのは――もし助かったとしても、前足が無いのでは猟犬として役に立たない。
いくら常に一緒にいたとはいえ、どれほど手塩にかけて育てたとはいえ、もう使い物にならないのだ。
だが、俺は情に流された。判断を見誤ったんだ。
「――で、犬を抱えて帰って来たって事か。よく無事だったな」
よく俺から商品を買ってくれる男が、そう言って呆れたように笑った。相変わらず年老いた牛にボロの荷車を引かせた、貧乏くさい商人だ。
まあ身なりが悪いのはお互い様だが。
「そういう商人のダンナ。あんたこそ、その左の車輪はどうしたんだ? 真新しいじゃないか」
「え? ああ、ちょっとドジってな。車輪屋から借りてるんだ」
「なんじゃそら?」
どっちも最近ついてないらしい。
「で、あんたのハウンドはどうなったんだ?」
「一命はとりとめたよ。前足は無いけどな。それでも元気なもんだ。走り回れないから、仰向けに寝そべって後ろ脚だけバタバタさせてる」
「へぇ。よかったじゃないか」
……よかった?
ああ、よかったさ。どんな姿になろうとも、生きていてくれるだけで嬉しい。気持ちの上ではそうだ。
でもよ。誰にこの話をしても、そんなまっすぐに「よかったじゃないか」と言ってくれたのはアンタだけだよ、商人のダンナ。
他の奴は、『捨てちまえ』だの『食い扶持だけが減らなかったな』だの、『新しい犬と交換しに行くんだろ』だの、散々な言い方だった。
「どうした? 泣いてんのか?」
そう言われて、俺は初めて自分が泣いていることに気づいた。仕事柄、イメージが大切な側面もある。人前では泣かないと決めていたんだがな。
「まあ、泣きたきゃ泣いてけよ。俺は商人だから、口は堅いんだ。誰にも言わねぇよ」
「すまねぇ。恩に着る」
俺はボロい荷車に顔を伏せて泣いた。まったく、ささくれが立っててチクチクしやがる。本当にボロっちいな。
「……そういえば、その車輪屋なんだが、変な乗り物を作ってたな」
「ん? なんだって?」
急に話が変わったな。
「いや、今朝の事なんだがな。いつも来るヴォイドちゃんが、車輪を2つ並べた変な乗り物に乗ってたんだ。あれの小さいやつを作れたら、またハウンドも走れるようになるんじゃ――」
「おい、その話を詳しく聞かせてくれ」
俺は気が付くと、その商人の肩を掴んで揺さぶっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます