第5話 それは痛いって
朝日が昇ってくる。どうやら、徹夜での作業になってしまったようだ。
もともと作業用の道具に馴染みが無いから、どうしても仕事が遅くなってしまった。廃材もちょうどいい長さのものが無かったため、いくつかを組み合わせて制作することになってしまった。
ただ、イメージ通りの車体が出来たぞ。
一本にまとめた廃材の、両端に車輪を付けただけ。これの真ん中に跨れば、空飛ぶ箒の空を飛ばないバージョンが出来上がりってわけだ。
「名前を付けないと不便だよな。まあ、名前を付けるのも面倒くさいが、いちいち呼ぶときに『空飛ぶ箒の空飛ばないバージョン』と呼ぶのも面倒くさい。そもそも、もう箒要素ゼロだし」
うーん。私はこういう悩みごとは苦手なんだよなぁ。ネーミングセンスの無さは自分でも気づいているし……
「じゃあ、自分で転がす車輪やから、自転車、ってのは?」
「うわぁ!」
突然後ろから声をかけられて、私は飛び退った。声の主であるヴォイドは、ニコニコと私の様子をうかがっている。
「な、なんだ。ヴォイドか。驚かせるな」
「いやー。ウチも驚かせるつもりは無かったんえ。でも面白かったからええわ」
「私はよくないわ!」
けらけらと笑うヴォイドに、私は今しがた出来上がった車体を見せた。
「ヴォイド。見てくれ。これが『自転車』だ」
「いや、命名したのウチだけどね。ってか、その名前でええの?」
「名前など、呼びやすければ何でもいい」
むしろ私が考える手間が省けた。うむ。悪くないことだ。
「では、試運転は任せるぞ。ヴォイド」
「え? ウチ?」
「そうだ。私は徹夜で疲れているから、3日くらい寝る。例え眠くなくなったとしても眠り続ける。その間にテストしておいてくれ。不具合があったら直してくれ」
「ウチが!?」
そうだと言っているのに、なんでヴォイドは一回で分かってくれないんだろうな。私は二度も同じことを言うのが面倒くさいんだ。
「待って、ジーネ。これ、どうやって乗るん?」
なんだ。使い方が分からなかったのか。
「まず、その中央の棒を跨いでくれ」
「うん。……え? こんな高い棒を跨ぐの?」
「うむ。何か問題があるか?」
「スカートなんよなぁ……」
そんなことを恥ずかしがらずとも、こんな朝早くから起きてくる人などいないだろう。私に見られたところで恥ずかしい事なんかあるまい。
「ちなみに、私は昨日、誰とも知らぬ通行人に全裸を見られたぞ」
「何その謎マウント!? ちっともフォローになってないし、詳しく聞かないとウチが寝られなくなるんだけど?」
全裸で追い出されたのだ。気にするな。
私の説得もあってか、ようやくヴォイドが脚を上げた。おお、はしたない格好だな。確かにヴォイドの言う通り、あの棒は膝下くらい低く設計する必要があるかもしれない。
「ま、跨いだよ……うう」
「よし、それでは腰を落として、その棒に座ってくれ」
「え?」
ヴォイドの顔が、みるみる青ざめていく。かと思ったら、急に赤くなった。なんだ? 顔色を変化させる魔法か?
「いやいやいやいや。こんな尖った細い棒に座るとか、何の拷問器具?」
「座りながらにして歩く。そのための装置だぞ。腰を下ろさんでどうする?」
「やだー!! 万が一のことがあったらウチがお嫁に行けなくなるえ!」
何を言っているのやら、私にはサッパリ分からない。座ることと嫁に行けなくなることの何が繋がるのやら。
……と、説明をしているうちに眠気が襲ってきた。私の身体ももう限界だな。最低限の説明を一方的にまくし立てて、そのまま寝てしまおう。
「座ったら、車輪に体重を預けて、そのまま地面を蹴ってくれ。2輪だからいずれ倒れると思うが、その前に足をつけば転ばずに済む。そこからもう1回蹴って進むのだ。私の計算では、腰が低くなる分だけ歩幅が広くなる。1歩で何センチ進んだかは、あとで教えてくれ」
「え? え?」
困惑するヴォイドをよそに、私は寝ることを決めたのだった。もちろん、ヴォイドのベッドで。
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