第12話 元凶の共鳴
町工場だったそれはいつも通りがらんどうだった。数年前に廃業し、不良のたまり場としても不評で鉄骨は錆び、機会の類は朽ち果てていたが、幸いにもゾンビを通さない箱物としての機能は果たしていた。
照井一味のアジトとなっているその建屋には、数十人の人間がいた。皆がマスクや布で口を覆っている。
「まるでサーカス旅団だな」
飯塚が言う。
「ラジオを聞いて集まってくれた人達なんです」
一味の一人はそう言うとひろし達に新品のマスクを渡した。
「隊長は、照井さんはこのゾンビの原因をウイルスと考えていました。すぐに感染対策としてマスクと消毒液をありったけ集めてここに避難所を作りました」
「いつから?」
「たぶん2週間ぐらい前から」
「ずいぶん早いな」
ひろしの両親がいなくなってから1週間余り。その1週間も前に照井はゾンビの存在に気づいていたことになる。
「そう言えば照井くん、学校来てなかったかも」
よほど影の薄い存在だったのか、クラスメイトの美希ですら今更彼の不登校を思い出した。
「それで、照井は何か言っていたか?」
「何かって?」
「こうなった原因について」
「それが……このキャンプの人が増え始めてから手分けしていろいろ調査してみたんです、ネットとか新聞で。その頃はまだギリギリ繋がってたから」
「結論は出なかったのか?」
「はい……わかっているのは、発症は日本から始まったということ」
「……本当か?」
「これを見てください」
一味の男はネット記事のプリントアウトを机に拡げた。およそ1ヶ月前の記事である。
「食人鬼?! 男に噛みつく、40歳無職を逮捕」
N県に住む42歳の男が通り魔的に男性を襲い逮捕されたという事件。ワイドショーでも少し騒がれたが、男が精神病院に収容されたとのことですぐに下火になった。
「確かにこんなことあったなぁ」
ひろしはあごを触りながら独りごちた。もともとヒゲは薄い方だが、それでもここ何週間も剃っていないので泥棒のような人相になってきている。
「N県で3件、S県で1件、ここ2年ぐらいで同様の事件が起きていました」
「N県に何かある、ということか?」
「おそらくそうだと思うんですが、もうひとつ共通点が」
――この4つの事件の被疑者はいずれも男性、42歳なんです。
ゾンビとグルメ チョイス @choice0316
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ゾンビとグルメの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます