第2話

 朝日が、小さな窓から差し込んでくる。

「…朝か」

 目覚めは最悪だった、昨日の様々な出来事がフラッシュバックし続け、よく眠れなかった。

 しかし、そんなことも言っていられず、時間は経つ。今日は、住民の人達と会って、この村について詳しく教えて貰わなくてはならない。

 史那は、冷蔵庫にあった食べ物を適当に食べて、家を後にした。

「………」

 相変わらず、外には誰も居なかった。

「…どうしましたか?記憶喪失さん」

「…!?」

 気付くと、隣には昨日の川の少女が居た。

「あまり、無目的で外を出歩くと、危険ですよ」

「いや、無目的って訳じゃないんだ」

「この村のことを知りたいんでしょ?良いですよ、教えましょう」

「え…?」

 呆気なかった…。昨日の彼女とは、全く逆のリアクションだった。

「あれ…?そういうことじゃなかったんですか?」

 少女は、史那に問う。

「いや、教えてくれ…」

「分かりました。では、私の部屋に招待しましょう」

 そうして、史那と少女は、歩き始めた。

 先ほどの会話中、少女の表情は一切の変化は無かった。

『…………』

「…では、そこに腰をかけてください」

 少女に誘導され、史那は椅子に腰をかける。

「そういえば、自己紹介がまだでしたね。…佐々木 由雨(ささき ゆう)十九歳です」

由雨はそう言って、深々と一礼した。

 史那も釣られてお辞儀をする。

「こっちこそ、自己紹介をしなくちゃな…。明星ヶ原 史那です」

 由雨は、少し驚いた顔をした。

「記憶が戻りつつあるんですか?」

「いや、ポケットにたまたま免許証があってね…」

 史那は免許証を見せる。

「…そうでしたか。…では改めて、史那さん。多分、昨日少し聞いたと思いますが…。この島には、「人食人種」いわゆる「カニバリズム」がいます。彼はとあるルートより人間を買収して、この島に保管しているみたいです。彼が一日に買収する人間の数は二人から三人ぐらいです。そして、一日に食す人間の数は、一人から三人。…昨日は二人でしたね…。彼らが使う武器は出刃包丁、拳銃、鉈、…場合によってはチェンソーを使う場合もあります。それと昨日、大音量のアラーム音が聞こえましたよね?…あれは、彼が来たことを表すアラームで、主に彼から逃げるために使われています。…とりあえず、ざっとこの島のこと、彼のことを説明しましたが、何か質問等ありますか?」

 由雨が質問を促す。

「…大体、分かったんだけど。でも…」

「でも?」

「この島から、出る方法は無いのか?」

 昨日、あの男にもした質問。無理だと即答された質問…。

「…あります」

「!?」

 想定していなかった答えが返ってきた。

「それは、どういう…?」

 史那は体を前のめりにして、由雨に答えを聞き出そうとする。

 由雨はバツが悪そうな顔をして、史那から目線を逸らし、口を開いた。

「…ごめん。厳密には永久脱出は無理…。しかも、島から出る権利は女性にしかないの…」

「え…?」

「よくわからない」そんな顔つきに史那はなっていた。

「…この島の女性には、とあるノルマをクリアしたら、彼に食べられる権限を免除出来るの。…『「売春婦」になって、一定額の金額を稼ぐことが出来たら食べない』っていうね…」

「……!?」

 理解が出来なかった、…理解したくなかった。

「因みに、稼ぐ期間は十六歳から二十歳までの四年間。私の場合、あと一年で、ノルマをクリアしなくてはいけない…」

「…一応聞くが、ノルマ達成は可能なのか?」

 史那は由雨に聞く。

「…不可能って訳じゃない。あと少しで達成するかもしれない…」

 史那は由雨の顔色を窺って、口を開く。

「だけど、精神的には、無理かも知れないってことか…?」

「…精神なんて…、とっくの昔に壊れているから…」

 そういう由雨の顔はとても暗かった。

 部屋が静かになる…、彼女も思い出したく無かったことがあったのだろう。とても、顔色が悪い。

「…よくよく考えたらさ、何で私、史那さんにこんなに話しているんだろうね…。自分にメリットも無いのに…」

 由雨の口からは、突拍子も無い言葉が出てきた。

「メリット…ね…」

 彼女は混乱しているのだろう、こんな身元不明の男が、この島に来て、親切にしたい反面、数年で染み付いた「疑い」の心が、彼女の中で渦巻いているんだろう…。

「…なら、俺にメリットを求めたらいい」

「!?」

 由雨は、遂に固まった。それと同時に、彼女の眼から、涙がこぼれ始めた。

「え?…え?…?」

 彼女自身、何故、涙が流れているのかを理解してないらしく、必死に涙の雫を拭い上げる。

「どうしたんだ…?」

 史那は由雨に駆け寄る、しかし、由雨はパニックに陥っているのか、俺を反対方向に突き飛ばした。

『ドン!!』

「あ…!」

 史那が壁にぶつかった音で、由雨は、目が覚めた。

「…ごめん」

 由雨は、倒れている史那を起こした。

「…今日は、このへんでいいかな?」

 由雨は史那に帰宅の催促をする。

「あ、…ああ…。今日はありがとうな…」

 史那は、そういって由雨の家を出た。

『ガチャ』

 由雨の部屋のドアが閉まった。

『バタッ…』

 由雨は、その場に倒れた。

「…どうしたの…?」

 分からない。

 彼の言葉には、何の異変は無かった。私も、普通に答えればいいだけの話だった。

 だけど、さっきはどうだった?

 パニックに陥って、思考不能になった…。

「………」

 由雨は、バッグの中から、袋を取り出した。

「薬が切れているのかな…」

そして、錠剤を取り出し、由雨は飲み込んだ。

『…………』

『ドンドンドン…』

 ドアが叩かれる音が聞こえる…。腕時計をふと見る…。

「(ああ…、時間か…)」

 正直、今日は乗り気じゃない、体が重い、頭が痛い…だけど…。

 由雨は、ドアの前に行きドアを開け、外の止まっている、車に乗った。

「(だけど、私は生きたい…)」

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