第2話 虚飾の戦士

 一夜明けても現実は何1つ変わらなかった。

 配布武器は己が魔力で形成される。


 形成の意思を示すと俺の手には、既に馴染んできた 爪楊枝つまようじが顕現された。


 俺は自分の頬を両手で叩きかつをいれる。母は病で他界し、英雄であった父さんも世界を護って死んだ。

 俺に遺されたのはこのボロ家と名声だけだ…。


 それでも、英雄の息子である事実は変わらない。

 その血を受け継いでいるならこの爪楊枝つまようじ神器じんぎの可能性だってあるはず…だ。


 俺は庭に出て、訓練用の木人もくにんの前に立った。

 たしか…戦礼せんれいの儀で水晶玉には投槍ジャベリンの文字が浮かんでいたはず…。


 …ってことはこの爪楊枝つまようじは投げて使う武器なのは確かだ。

 俺は木人もくにん目掛けて爪楊枝つまようじを投げた!


 想定通りと言うべきか…爪楊枝つまようじは風の抵抗を受け左右に揺られながら標的にすら届かず地面に落ちた。


 やっぱりダメか…。地面に落ちた爪楊枝つまようじを拾い上げると、跡形もなく崩れ落ちた。

「…えっ?もう壊れたのか…」


 その後、何度投げても俺の配布武器が爪楊枝つまようじである事実は変わらず、加えて耐久力の低さが目についた。


 配布武器には耐久力があり、耐久力が無くなると霧散する。ただし、魔力があればいくらでも顕現しなおせるが…。


 結局、手詰まりにあり、あまり気乗りはしなかったが再び武器屋を訪れる事にした 。

「いらっしゃ…」

 武器屋のオッサンは店を訪れた俺に気付くと…そこで言葉を止めた。


「オッサン…昨日は悪かった…急に飛び出しちまって」


「いや、俺の方こそすまんかったな。もっと言葉を選ぶべきだった…。兄さんが俺に爪楊枝つまようじを預けたまま飛び出たから一応あの後、知り合いの元神官に見てもらったんだが…」


「やっぱり、ただの爪楊枝つまようじだったんだろ?」


「…すまん」

 武器屋のオッサンは申し訳なさそうに頭を下げる。


「オッサンが謝ることじゃ無いだろ。むしろそこまでしてくれてありがとう」


「今朝、こいつを投げてみてすぐに壊れたんだけど、こいつの耐久力ってわかるか?」


「ああ…昨日は鑑定結果を教える前に帰っちまったから伝えそびれてた」

「この爪楊枝つまようじ…いや、こいつの武器の名は“ささくれ”。

 耐久力1で召喚に必要な魔力0.0001だ」

 武器屋のオッサンは丁寧に説明してくれた。


「そういえば俺…自分の魔力を測定したこと無かったな。戦士の平均魔力は…確か1000ぐらいだったはず。それをかんがみるなら…この“ささくれ”は日に1千万本は顕現できるな」


 俺は片手いっぱいの爪楊枝つまようじを顕現させた。

「どうやら一度に顕現できる数に制限は無いみたいだな」


 そして、それを床に落とすと同時に、全ての爪楊枝つまようじが跡形もなく消え去っていく。

「しかし、これじゃあ耐久力があまりにもお粗末すぎる…こんなんで戦いにどう活かせっていうんだよ…」


 …俺は落胆しながら武器屋を後にした。英雄に憧れるどころか戦士としての資格すらないように感じてしまう。


 うつむきながら帰路についていると唐突に声を掛けられた。

「…おいっ、待てや小僧。金目の物を置いてけや」


 周りが見えていなかったせいか、俺はいつの間にか薄暗い裏路地を歩いていた。

 声の主に目をやると、既に俺の周りを数人の男が取り囲んでいる。


「なんだお前らチンピラか?テンプレみたいな絡みかたしやがって」

 俺は危機的状況だと理解するよりも、配布武器が爪楊枝つまようじだったショックが大きく、全てがどうでもよくなっていた。


「この状況で動じないとは…さすがと言うべきか…、お前…英雄の息子だろ?」

 別の盗賊が警戒しながら 湾曲した剣をこちらへと突き出す。


「別に怨みがあるわけじゃ無いんだが…昔、お前の親父に仲間を殺されてなぁ…悪いが金目の物は殺していただくことにする!」


「ごたごた言ってないで、さっさと掛かってこいよ。わざわざ声なんか掛けずに奇襲した方がよかったと、後悔させてやるよ」


 盗賊たちは俺の安い挑発に乗り全員が武器を召喚し構えた。


 …啖呵たんかをきったのはいいが…別に勝算があるわけじゃない…。それでもこの状況を乗り切る為に一か八かの奇策を講じることにした。


 俺は掌の中に爪楊枝を召喚する。

 配布された専用武器を召喚する際、魔力使用に伴 い、赤い雷がほとばしる。


 それを見たチンピラたちは一斉に飛び掛かろうとしたとこで躊躇ためらう。


「なんだ!?召喚時の魔力の奔流が見えたのに武器がねえじゃねえか…」


 武器が見当たらないことにビビったチンピラが後退りを始めた。

 俺はチャンスだと思い、更なるはったりをかます。


「お前ら運が悪かったな…。俺の武器は神器じんぎなんだよ。お前らには見えないだろうが俺の手には剣が握られている!」


 俺は剣を振る要領で片手を横に振る。その瞬間に大量の爪楊枝つまようじを顕現させた!

 周りにいたチンピラは一瞬にして爪楊枝つまようじの波に呑まれた。


「うぁぁぁ~!」

 突然の出来事に驚き、チンピラどもは情けない悲鳴をあげる。しかし、耐久力が1である爪楊枝つまようじは、一瞬にして霧散し跡形もなく消え去る。


 チンピラたちは状況が理解出来ずに地面にへたり込んでいた…。


「俺は父さんと違って優しいんだ。できれば殺したくはない。だが…これ以上やるってんなら次は息の根を止めるぞ!」

 俺はここぞとばかりに凄む。


「ヒッ!!見えない神器じんぎなんて反則じゃねぇか…それに、俺たちを一瞬で呑み込んだ得体のしれない物はなんなんだ!?…悪かった、許してくれ…」

 チンピラたちは俺のはったりを信じ、神器じんぎによる御業みわざだと勘違いしたようだ。それだけ言い残すとチンピラたちは一目散に逃げていった。


「ふぅ~」

 俺は何とか難を凌げ安堵する。














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