第7話 バルドロウの夜
「ほう? 男振りが上がったではないか。」
「散髪と髭剃りが待っているのにさっさと上がってこず、お待たせして申し訳ありません。」
「百が三つ集まれば三百だということは知っている……ちょっと調子が悪かっただけ、です……」
そこにはボサボサ頭を短く切り揃え、髭をきれいに剃りあげたバルドがいた。貴族には見えなくても、騎士になら見えてもおかしくないだろう。
「夕食を食べたら早く寝るといい。明日からは忙しくなるからな。」
「……全力を尽くします……」
今まで食べたことのないような料理を前にしてもバルドの表情は変わらない。美味しいのかそうでないのか。
バルドが部屋に戻った後、シンクレアは侍女ロザリタから報告を聞いていた。
「体の洗い方や数字も知らない山猿ではありますが、殿下のお目に狂いはないかと。」
「そなたの誘惑に抗ってみせたか。やるではないか。」
「はい、女を知らない身でよくやったと思います。もっともこれで終わりではありませんが。」
「うむ、今夜も頼む。意に添わぬことを頼んですまぬな。」
「いえお嬢様。強い男は大好きですので。」
「ならばよい。殿下の婿に相応しい男かどうかしかと見極めてくれようぞ。」
「御意にございます。」
そしてロザリタは自分の部屋へと帰り、十数分後に着替えを済ませてどこかへ出かけて行った。
バルドは……あまりに色んなことが起きすぎた今日の疲れを癒すべく、いち早くベッドに横になっていた。しかし、目は冴え、体は昂り全く眠れそうになかった。特に、初めて触れた女の柔肌の感触はバルドの体に今も残る熱を与えてしまっていた。その高まった熱を処理する方法を知らないバルドは、ひたすら目をつぶり、せめて体だけでも休めようとじっとしていた。
そんな時、そっとドアが開く。鍵は閉めていたはずなのに。敏感になっているバルドは起き上がり誰何する。
「誰だ……」
「私です。ロザリタです。」
「何の用だ……」
「この格好を見て分かりませんか? 剣奴なれば夜目も効くでしょう。」
「なっ……」
薄明かりの中、申し訳程度にベビードールのみを身につけたロザリタの肢体を見つめるバルド。浴室では全裸を見てしまっていたが、離れた場所から全身を見るとスタイルの良さが際立っている。おそらくはあれを男好きのする肉体と言うのだろう。経験のないバルドにすら分かってしまうほど、男の本能に訴えるものがあるのだ。
「昂っておいでですね。」
「もう寝るところだ……出て行ってくれ……」
「寝られるのですか?」
間髪入れず言葉を返すロザリタ。
「問題ない……」
「嘘つきですね。バレバレですよ。その昂りを鎮める方法はご存知ですか?」
「知らん……」
バルドは間違えた。「知らん」ではなく「昂ってなどいない」と返事をするべきだったのだ。経験が桁違いなのだから手玉にとられても仕方ないのだが。
「では教えて差し上げましょう。」
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「お、俺は……」
「ふむ、これほどですか。文句なしですね。合格です。あなたをアイリーン殿下に相応しい男と認めましょう。」
「……なに……を?」
「簡単な話です。おそらくあなたは殿下の唯一の婿、いずれは王配となるでしょう。そのあなたに万が一にも子種がないとなれば国を揺るがす一大事なのです。浴室で確かめることができていればよかったのですが。」
「分からない……何がしたいのだ……」
「分からないならそれでいいですよ。とにかくあなたは合格です。どうか殿下を幸せにしてあげてください。」
「……全力を尽くす……」
冷静さを取り戻したバルド。その上すっきりとした気分でもある。これならばよく寝ることができそうだ。ロザリタに感謝していた。
冷静になった頭で考えるバルド。こちらを人間以下の存在と見下し頭を抑え込もうとする愚かな貴族。こちらを人間以下の存在と知っていながらも炎姫のために身を削って世話をする高潔な貴族。今まで貴族だ王族だと一括りに考えていた自分が恥ずかしくなっていた。そして王族でありながら下層民の自分に純粋な好意を向けてくる炎姫が……ますます愛おしくなっていた。
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