フラヴィアの秘密
玻璃
#1 出逢い
確か、彼との出逢いは冬なのに空に入道雲が浮かんでいた日のことだった気がする。
私は空想好きだし、皆にもぼーっとしてると言われるから、もしかしたら夢だったのかもしれない。でも、彼と過ごしたこの冬の出来事は、今もなお私の脳裏に焼きついて離れない。
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フラヴィアは一人で家のそばの森を散歩していた。
カラスが『こんなに寒いのに入道雲かよ!空も正気じゃないなぁもう』と文句をこぼして騒いでいる。
フラヴィアには他の人には見えないモノが見えていた。誰にも信じもらえないし、気味悪がられることもよくある。そのせいでいつも一人ぼっちだった。
カラスが騒いでいるから今日は妖精さんには会えないかも、と一般人には理解出来ないことをがっかりしつつ足を進めると知らない場所に出た。どうやら廃品置き場らしい。
淀んだ空気と煙草の匂いに顔をしかめ、匂いの出どころを目で探した。
「だれ、お前」
廃車の上に座って煙草を吸う少年がいた。ぎろりと睨まれて思わず息をとめる。
目の横に垂れた長い前髪と緑のひとみ、黒いジャケットに見覚えがある。学校のクラスで隣の席のオースティンだ。
「お前がなんでここにいるんだよ?」
クラスではいわゆるイケてる系キャラで不良。上級生もいる不良の仲間とたむろしていて噂にはクスリにも手を出しているらしい。
隣の席だけど話したことはないし、クラスでも浮いてるフラヴィアとは、かけ離れた存在だ。
「なんか言えよお前」
オースティンは明らかに機嫌悪そうな顔をして煙を吐いた。でもフラヴィアはそんなことは気にしない。
「広いね。」
たったひと言呟くと、辺りを見回した。だだっ広い廃品置き場には車やら椅子やらタンスやらが積み上がるように捨てられる。しかしオースティンが座っている廃車の周りは家具がきちんと整えられ、まるで基地のようだ。
「どうやってここまで来たんだよ?こんな所普通来ないだろ。森のお――」
「そこ座っていい?」
フラヴィアはオースティンの言葉を遮り、その返事も聞かずに捨てられた揺り椅子の上に腰かけると空を眺めた。
「え?おい、なんなんだよほんとに。あっち行けよマジで。」
「入道雲、すごいきれい」
おかまい無しに空を眺めるフラヴィアにオースティンは困惑を隠せなかった。会話のキャッチボールが全然成り立たない。
「お前、怖。さっさと失せろ。」
オースティンは声を荒げた。大抵の女子はこれで悲鳴をあげて逃げていくはずなのにフラヴィアは無反応だ。
何か言うこともなくただぼーっとしてるフラヴィアに悪態をついたが、何を言っても動かないため、オースティンは諦めてラジオをつけた。廃車の上に寝転んで雑誌を読みつつこっそりとフラヴィアの様子を伺う。
オースティンは不良のチームのなかで生きてきた。当然危険なめに合ったこともある。そんな経験のなかで、オースティンはフラヴィアを怪しく思っていた。クスリをやったり、煙草を吸ったりしている奴らと何か近いものを感じるのだ。生気の無い目とおかしな言動のせいだろうか。
オースティンはフラヴィアが転校生してきた冬の日のことをしっかりと覚えている。
自己紹介のあと席につくとこの席は悪魔に憑かれているなどと言い出し、手前の席からオースティンの隣の窓側の席に移ってきた。
その後も死者のうめき声や人狼の冷たい視線を感じると言って、転校初日に早々に早退したのだ。
フラヴィアは頭がイっちゃってるとクラスの皆が口々に言った。オースティン自身もそう思っていた。
「あっユニコーンだ」
フラヴィアはいきなり立ち上がると、森の中へと走って行った。一人残ったオースティンは今の出来事は夢か事実かと、フラヴィアが消えた方角を見つめた。
その時のオースティンはまだ、フラヴィアと関わるにつれて、途方もない世界の闇に身を埋めていくことになるとは知るよしもなかった。
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