今日の気持ち

@NicoGaiWriter

微かな失望感

 今朝、7時51分ギリギリに道を渡った。「渡ってもいいよ!」という青い人型の電気が点滅しやんだところ。バスは五十分にこの乗り場に止まるはずだったが、運よく2分遅れて到着してくれた。


 バスの中は意外とすいていた。目立つ外国人の私とおばあさんが二人、おじいさんが一人、大学生の女の人と所々髪の毛が灰色になった男の運転手。合計六人。


 バスが発車するのと同時に、近くにある一人用の優先席に座り込んだ。「空いてるから別に勝手に座っていいかな」と思った。大事な用事、というかエネルギーがないせいで、ただぼうっと外の景色を眺めていた。


 ビル、木、緑地帯、全ての日常が後ろへ向かって飛んでいく。


 本当に楽なドライブだった。後ろへ飛んでいくものの中に、空いているバス停も見えた。そこにはやはり誰も待っておらず、先ほど遅れたせいで、バスは止まらずに前へ進み続けていた。


 洗濯機の中を回る水の渦に魅了されるように、何分経ったか、気づかなかった。突然車内アナウンスが聞こえた。「次は、大田方南、大田方南」 あ、私のとこだ。ボタンを押さなきゃ。そう考えていると途中で、先に降車ボタンを押された。信じられなかった。


  つぎっていう言葉の「つ」が言われた瞬間、ボタンの中の赤いフィラメントがもう光った。私は遅すぎた。バス停の発表をちゃんと準備してなかった。ほっとした。とにかく、失敗してしまった。ボタンを押したかったのに。


 バスを降りるときに、あの二人のおばあさんも降りた。七十代なのにあの手早さはすごい。それより、七十代だから何度もボタンの訓練はしていたかもしれない。一刻も早くボタンを押す準備をすることがどれほど大切か、わかっているはずだ。


 カードをタッチして、がっかりしていたのと、急いでいたせいでバスの運転手の顔も見ず「ありがとうございます」と呟いて、おばあさんたちの後に私も出て行った。


 仕事は八時半からで、無事八時十五分につくことはできた。だが私は、歩きながら微かな失望感を抱いていた。

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