第6話 最初の名前

 自分の名前を自覚する、ということはどういうことなのだろう。名付けとは本来自分ではない他からの分類のはずだ。


 自分の名前を自覚するには、そもそも自分が名前のある存在であることが必要である。他から付けられるものではない。


 アザトース。それが始まりの、最初の個の名前だった。意識の塊、質量の塊、エネルギーの塊としての個。その最初で最大のものの名前だった。


 アザトースは自らをアザトースとして認識した。


「我が名はアザトース。原初にして万物の王である。誰か我を認識できるものはおらぬのか。」


 アザトースは意識を周辺に拡散してみた。宇宙全土を覆う拡散だ。光の速度を遥かに超える速度での拡散だった。いくつか反応があったが、まだアザトースを認識できる存在ではなかった。


 アザトースという名前そのものには、何らの意味はなかった。ただ、アザトースという存在であっただけだ。

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