第76話「オペレーション・ヨシテル」
ワイラを取り逃がした修と
「申し訳ありません。我々がサポートに入れば勝機はあったのに、みすみす逃してしまいました」
正気を取り戻した抜刀隊を代表して、大久保が謝罪の言葉を述べた。彼らの回復は予想よりも早く、精神的な後遺症はなさそうであった。
「それはいいんですが、これからの対策を練らなければなりません。何かいい考えがありますか?」
「それは何とも……」
抜刀隊の隊員達も強力な再生能力をもつワイラを完全に仕留める方法が思いつかないようだ。
「一応、さっきの戦いでは途中まで手応えがあったから、粘液で切れ味の悪くなった刀を次々と持ち替えることが出来れば、ごり押しできるかもしれませんが……」
一応の勝利の可能性を述べる修であったが、これは確実とは言い難いため濁すような言い方になってしまう。先ほどの戦闘と同じ様に、刀の持ち替えをサポートする抜刀隊の隊員達が魂を抜かれた状態になってしまっては二の舞なのだ。
修は打開策を考えた。以前、もっと強大な外つ者であるヤトノカミやダイダラボッチを撃破した時はどのように再生能力を打ち破ったか。
ヤトノカミ戦は、神代の時代より伝わる神剣「
ダイダラボッチ戦は、防衛隊の大砲により再生能力が追い付かない位、体を木端微塵にした。
「大砲は持ってこれないんですか?」
「持ってくるのには時間がかかりすぎますし、持ってきても建物の中では運用できませんね。バズーカなら使えるかもしれませんが、威力に欠けると思います」
千祝が提案した現代兵器を使用する方法は、実現性が無いと却下された。もしかしたら、建物の外に追いやれば使えるかもしれないが、それでは都心に取り逃がす危険性が増大するため本末転倒である。
「では、布津御霊剣を持ってこれないんですか? あれなら、ワイラの再生能力を完全に封じ込めて撃破出来ると思いますが?」
「あれは国宝ですから、文部科学省に許可を取るのに時間がかかりますし、茨城県から持ってくるのにも時間がかかりますね。香島神宮での戦いで使用できたのは、あくまでその場に祀られていたものを緊急避難的に使っただけですから」
「そうですか……」
外つ者が弱点とする神聖な気を膨大に秘めた剣を持ってくるのも、実現の可能性が低いらしい。
却下されたので別の方策を考えようとした修は、ある一つのことに気が付いた。
「その場にある武器だったら、国宝であろうと、緊急避難として使えるんですよね?」
「そうですね。許可を得る余裕がない。命がかかっている状況ですから、そうなりますね」
「ならば、良い考えかありますよ。この国立博物館には、天下五剣と謳われるような名刀がわんさか展示されています。この刀ならワイラの再生能力を打ち破ることが出来るのでは?」
「おお!」
修が思いついたのは、この国立博物館という場所の特性を最大限に活用することであった。
この国立博物館には、国宝、重要文化財に指定されている刀が大量に保管されている。単なる美術的に優れたものだけではない。童子切安綱のように酒吞童子を退治した伝説の残る退魔の刀も含まれている。
恐らく、酒吞童子は強力な外つ者の一体で、それが伝説として残っているのだろう。つまり、童子切安綱は対外つ者の武器としては実績があると言えるし、他の名刀にも期待が持てる。
「作戦はこうです。先ず、本館に展示されている名刀を回収します。そして、再びワイラと戦い、その時には名刀を次々にワイラに叩きこむのです。
「なるほど、名刀を惜しげもなく大量に使用する。まるで室町幕府の将軍、足利義輝みたいね」
足利義輝は、室町幕府第13代将軍で、塚原卜伝の教えを受けた剣の達人である。塚原卜伝は修や千祝の流派の祖であるため、足利義輝は大先輩にあたると言える。
そして、足利義輝は部下の謀反にあって殺害されたのだが、その最期はただ無残に殺されたのではなく、将軍家に伝わる名刀の数々をとっかえひっかえ使用し、群がる敵を次々に切り捨てたと伝えられている。
将軍たるものが、一兵卒のように戦うことの是非はともかく、武人としての気概は見せたと言ってもよいだろう。
「よし! その策を採用しましょう。作戦名は「オペレーション・ヨシテル」とし、この国立博物館に所蔵されている名刀を回収、後に再度ワイラに決戦を挑むとします。異議のある者はいますか?」
大久保が議論をまとめ、作戦の実施を提案した。異論ある者は無く、作戦は決行されることとなった。
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