第67話「異界化再び」
修と
何故このような事になったのかというと、この突入が修達のもたらした情報によるものだからだ。
この日の午前中、修達は夢に出てきた縄文時代の
結果は、「陰の土の気が封じられし器が、関東に集まろうとしている」というものであった。
修達はこの占いの結果を、土偶によって外つ者が封じられており、それが復活しようとしているのではないかと考えた。これは、縄文時代と土の器の関連するのが、土偶であろうと連想されたことによるものである。最近、博物館で怪獣土偶を見たのもその発想を助けている。
というわけで、土偶に関して何か妙な動きはないか、別の情報屋に問い合わせたところ、遺跡の発掘現場から盗み出された土偶の密売が、ラブホテルで行われる予定だと知らされた。まさかこんな所で盗品の密売が行われているとは思われないし、防音等の設備面を考慮して、この密売組織はその場所をよく使っているらしい。
よく土偶の密売などという訳の分からない情報を持っていたものだと疑問に思ったが、蛇の道は蛇というものらしい。
情報を得た修達は、対外つ者の警察の特殊部隊である抜刀隊に所属しており、太刀花道場の同門である大久保に通報した。
所轄の警察への調整に時間を要したため、警官隊の到着が取引の時間に間に合わない可能性があったため、修と千祝は取引現場であるラブホテルに二人だけで突入した。
結果、十数人の密売人を制圧し、ただ一人逃走した密売人もたまたま通りかかった修達の同級生が撃破したため、全員捕えることが出来たし、外つ者の封じられた土偶も確保出来た。
そして、密売人達を警察署に連行すると、彼らへの尋問もそこそこに、もう一つ残った土偶である国立博物館の展示品を確保しに上野に来たのだった。
国立博物館は昼間は特別展でごった返しているため、営業中に土偶を回収しようとした場合混乱が生じる可能性があるため、夜になるのを待っていたのだ。
修達が近くの公園で待機しているのは、何かあった時の予備戦力として期待されているためだ。一緒に突入するという手もあったのだが、修と千祝が警官の精鋭部隊より優れているのは、外つ者に対する戦闘力のみであり、銃器を持った相手だったりするとそれほど強みは無い。いくら武芸に優れていても、近代兵器に対しては有効ではないのだ。
もっとも、達人の中には銃器で武装した特殊部隊を圧倒する者もいるのだが。
「もうそろそろ突入部隊が土偶を回収したころですかね?」
修が時計を見ながら大久保に尋ねた。そんなに大きな声を出したつもりは無かったのだが、夜の静寂に修の声は強く反響した。
「さあ? 確かに連絡が来てもおかしくない頃なのですが」
大久保が無線機を手にしながら答えた。大久保は先ほどからうろうろと同じところを歩き回っている。彼も修と同じく落ち着かないのだ。
修達はつい最近、今回と同じように外つ者の復活を防ぐために戦ったことがある。その時は、復活したての下級の外つ者の再封印に一旦は成功したのだが、その場を離れたすきに何者かが上級の外つ者であるダイダラボッチを復活させてしまったのだ。
最終的にはダイダラボッチの討伐に成功したものの、あのような事態はなるべく防ぎたいというのが修達の思いである。
「修ちゃん! あっち!」
「ああ! 俺も感じるぞ!」
大久保に無線で状況を確認できないか、尋ねようとした時にそれは起きた。
「ん? 何かありましたか?」
大久保はまだ、修と千祝が気が付いた何かに気付いていない。
「気が付きませんか? 空気が外つ者のせいで異界化した時に似ていますよ」
「何ですって? しかし、携帯電話を見るに電波が来ていますよ? 異界化したならば、電波が通らなくなるはずでは?」
大久保は信じられないといった表情だ。
「この場が異界化したわけではないと思います。あっちの方向、そこから嫌な気配を感じるのです」
「あっちの方向には何があったかしら?」
「確か、科学博物館があったはずですが……」
大久保は考え込んだ。国立博物館で妨害があることは想定していたが、その近くで異変が起こることは想定外であった。
「大久保さん。俺達で様子を探ってきます。危なそうならすぐに戻ってきますが何かあった時は救援をお願いします」
「分かった。本部への報告と、国立博物館に行った部隊へ警告が終わったらすぐに向かうから、あまり急ぎ過ぎないように」
「了解。行くぞ、千祝」
「うん。気を付けていきましょうね」
修と千祝は、手にした刀に巻き付けてあった布を取り払い、すぐに抜刀できるよう腰に差した。
「ここに突入する羽目になるんなら、この前国立博物館に来た時についでに見ておくんだったな」
「しょうがないわよ。子供たちの面倒を見るのに結構疲れていたから、そんな余裕なかったもの」
事前に偵察できる機会があったのにも関わらず、それをせずに死地に飛び込む羽目になったことを愚痴りながら、修達は異界化した科学博物館に侵入していくのだった。
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