第14話「お宝拝見」

 ゴールデンウィーク初日、午前中の道場破り退治とその処理が終わった後、修は中条の家に遊びに来ていた。


 中条の家は修の住んでいる八幡市から電車で十数分は津田沼駅付近にある。津田沼駅周辺は千葉県の中でも発達している方の街で、中条と駅前で待ち合わせをして昼食や千祝に頼まれた手芸用の生地を買ったりと寄り道をしてから中条家たどり着いた。


「おじゃまします。ご家族はいるのかな?」


「いらっしゃい。今日は誰も帰ってこないよ」


「そっか。じゃあ早速だけど見せてもらおうか」


 早速本題に入ることにする。中条の家には刀があるそうで、修はそれを見に来たのだ。太刀花家の蔵には、刀剣類が沢山収蔵されているが、これは別腹である。


「どうぞ」


 中条は、壁に固定している金属製の箱を鍵で開け、重そうに中身を取り出して修に差し出した。取り出したのは、1メートル以上もある大太刀であった。定寸は二尺三寸五分(約70センチ)なのでかなり長い。


「それでは、拝見させていただきます」


 修は大太刀を受け取ると、一礼をしてから鑑賞をはじめた。


 鞘は黒塗りで装飾性が無く、実用本位な雰囲気を出していた。柄は鮫皮の下地に鹿革の鞘巻きで持っている感覚としては滑りにくく扱いやすそうだと感じた。


 鞘を抜き払うと長大な刀身が露わになった。ところどころ刃こぼれがある為、明らかに使用した形跡がある。しかし、手入れは良く行き届いており、実用一辺倒ではなく鑑賞にも耐えうる美も備えていた。


 一通り外観を鑑賞した後、家から持ってきた道具を使って柄を外し、茎を確認する。銘は切られていない。


 大太刀の全体をくまなく見終えると、刀身を鞘に納め机に置いた。


「いい物を見せてもらいました。今まで色々な刀を手にしたことがありますが、こういう大太刀は初めてで良い経験になりました」


 鑑賞で緊張しているせいか、敬語になってしまった。


「で、これはどういう刀なのかな? 重すぎるから実用品じゃないと思うんだけど」


 中条が問いかける。家にある刀がどのようなものかについて意見をもらうのが今回修を招いた目的だったのだ。意見と言っても、鑑定というほどのものではない。修の鑑定眼はそこまで高くないので、剣術家としての意見が聞きたいのだ。中条家に刀に詳しい人間はいないため、この大太刀は親戚の者が手入れしている。その親戚が出来たら譲ってほしいというので、価値を調べたいのだ。なお、鑑定書は今机に広げているが、無銘としか記述されていない。


 美術的な価値や歴史的価値は低そうなので、実用品としての価値を確認したいのだ。親戚相手にあまりけち臭いことはしたくないが、きっちりすべきところはする必要がある。


「いや、これは実用品だよ。刃の状態から使用した形跡があるし、バランスも良いし、重さから感じるほど使いづらいとは思わないな」


 中条は驚いた。てっきり飾り物の虚仮脅し的なものかと思っていたのだ。


「でも、どんな人がこんなの使うんだい?」


「そうだな……」


 問われた修は、大太刀をもって少し考え込む。しばらくすると、ゆっくりといくつかの型を演じて見せた。


「この刀は、それぞれの時代で二天一流、柳生新陰流、天然理心流が主な使い手だな」


「凄いね。なんでわかったの?」


 修が動き始めたために、少し間合いを取った中条が当然の疑問を投げかける。


「……さあ? 何となくだけど……」


 修も何故自分が断定出来たのか分からなかった。ただ、自然と各流派の動きを頭の中で再現することが出来たため、それらの流派だと感じたのだ。よく考えてみれば、長くて扱いづらい刀を二刀流で使うとかは可能性が低いはずなのにだ。


「あと、戦国武将でこういうでかい刀を戦場で使ってた人もいるはずだから、常識はずれの長さでも非実用品とは言えないと思うぞ」


「そうなの?」


「そこにあるパソコンで調べれば多分出て来るぞ。ネット環境はあるんだろ?」


 パソコンを起動してインターネットで大太刀について検索してみる。そうすると、こういう大太刀は日本の各地に結構な数があることが分かった。また、修の言う通り戦国武将にも使い手がおり、恐ろしいことにそれは中条家にあるものよりもさらに長いという、とんでもない代物だ。


「凄いな。これよりも長いのを使いこなすなんて」


「あ、鬼越君。これ、真っすぐな奴だけどこれもやばいよ」


 中条が画面に出したのは、反りの無い、古代風の直刀であった。名前は黒漆平文くろうるしひょうもん太刀拵たちこしらえ、通称布津御霊ふつのみたまと言い、茨城県の国宝である。香島神宮という神社に奉納されているそうな。


 この剣を見た瞬間、心臓の鼓動が早くなるのを修は感じた。


 例えこの刀が国宝であろうと、常識はずれの長さをもつ刀であろうと、修には関係ないはずであるのにだ。


「どうしたの?なんか様子がおかしいけど?」


「いや、何でもない」


「そう? そういえばお茶も出してなかったね。今淹れて来るよ」


 その後、修達は茶や菓子を食べながら雑談して過ごした。八幡学園のこと、お互いの中学生時代のことなどだ。これに加え、部活でみせた抹茶の点て方とは違う煎茶道のやり方を実演したりしていると、日が暮れてすっかり暗くなっていた。


 夕飯は太刀花家で食べる予定であったので、中条家を後にすることにした。

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