自分の在り方

ネルシア

自分の在り方

「もう高校も終わりだね。」


「そうだね。」


「あのさ。」


「何?」


「私ずっと伝えたかったことがあるんだ。」


「改まってどうしたの?変なものでも食べた?」


「あなたが好き。」


「・・・私もあなたが好き。」


「でも?」


「私は普通に生きたい・・・。」


「そういうと思った。」


「ごめんね。」


「いつか絶対に迎えに行くからね。」


返事ができずに踏切の向こう側へと渡る、私の初恋にして初告白されて初めて振った人。

踏切が下がるうるさい音がして、すぐさま電車が通る。

自分まで揺れている感覚で、段々と人の声が聞こえてくる。


「お母さん、起きて。お母さん。」


ゆっくりと目を開けると、夢を見ていたのだと理解する。


「昼寝なんてらしくないね。どうしたの?」


中学生の娘に笑われる。


「疲れてるのかなぁ。」


「しっかりしてよね~。」


娘との仲は悪くない。

夫との関係もそれなりに良好。

専業主婦ではあるけど、夫は頑張ってかなりいい稼ぎを出してくれている。

文句は言えない。


「今日は何食べたい?」


「んー、パスタかな!!」


「わかった。」


晩御飯の準備をする。

最近昔の夢を見ることが多い。

娘もいるし、稼ぎのいい旦那もいるし、幸せでないはずがない。

そのはず。

なのに、この虚無感はなんだろうか。

ただご飯を作って、洗濯して、掃除をして、いってらっしゃいとおかえりなさいを言って、寝て起きる。

何も幸せでないはずがない。

私が私でなくなっているという点を除けば。


夫から連絡が入る。

今日も遅くなるとのことだ。

最近仕事遅くなることが多い。

何かのプロジェクトに関わっているらしい。


娘と先に晩御飯をすませ、夫の帰りを待つ。

23時頃。


「帰ったぞ。」


夫の帰りを出迎える。


「お疲れさまでした。」


「おう。」


作っておいたパスタを温めなおし、食卓に出す。

それをいただきますも言わずに食べる夫。

食べ終わると食器はそのままに、お風呂へ入る。


食器を下げ、洗う。


本当にこのままの生活でいいの?

でも、仕方ない。

これが幸せなはずなんだ。


自問自答を繰り返しながら寝る準備を済ませ、寝床につく。


次の日、食料が少なくなったので、買い出しに出かける。

最後に残ってたいいお肉のパックを掴んだら、もう1つの手も私と同じように、そのパックを握っている。


「あ、どうぞ。」


譲ろうとして、その人の顔を見る。

心臓が止まるかと思った。


「そんな顔するってことは覚えてたんだ。」


「・・・元気にしてた?」


「それなりに?」


初恋の人。

こんな偶然って。


「今時間ある?」


今日は娘は塾という連絡だし、夫はまた遅くなるとの連絡。

幸い、まだ買い物かごには何も入れていない。


「あるよ。」


「久々にお茶しようよ。」


あの時と変わらない態度、話し方。

見た目はあの時の可愛さよりも、大人びた美しさと艶やかさがある。


近くのコーヒー屋さんに入る。

その間は話題は無い。


注文を終え、互いにテーブルに座り、向き合う。

すると、バッグの中から封筒を取り出し、私に差し出してくる。


「初めに言っておく。私は今でもあなたが好きだから。」


その封筒を開くと何枚かの写真が入っていた。

その1枚1枚を凝視してしまう。

初恋の人の顔を見てしまう。

でもその人はただ笑うだけだった。


「それが事実だ」、と。


写っていたのは夫と若い女性。


さらに、別の写真は娘と中年男性とラブホテル。

それだけで何をしていたかは分からないはずがない。


手が震える。


すっと私の手を握る。


「一回試してみない?」


ショックでただただ初恋の人についていく。

電車に乗り、ラブホテルへとたどり着く。

誘われるがままに部屋に入り、下着姿になったところで、我に返る。


「こんなの間違ってる。」


「あんたの娘と夫は間違えてるのに?」


ベッドに押し倒され、首から舐められ、耳へとたどり着く。

夫はこんな優しい愛撫はない。

思わず欲してしまう。


「誰からもこんな風に触ってもらえなかったんだね。」


私がされたいことを的確にしていく。


気付いた時には下着も全て剝ぎ取られ、ありとあらゆる場所を触れられ、愛撫され、舐められる。

愛と技術。

何回も果ててしまった。


突然無機質な電話の音が鳴り響く。

終わりの時間だ。


「私、養えるほど収入あるからここにおいでね。」


1枚の名刺を渡される。

それを大事に財布の中へしまう。


家に帰り、いつもと変わらない態度の娘と夫に吐き気がする。

あんなことをしておいて。

今までの私はなんだったの?


次の日、夫と娘がいない間に急いで身支度をする。

これといって持っていくものもなかった。

一体何年の時間を費やしたのやら。


そして初恋の人の家へと軽やかに足を運ぶ。


立派なタワーマンション。

部屋番号を確認すると最上階だった。

インフォメーションで、呼び出す。


「待ってたよ。」


自動ドアが開き、初恋の人の部屋の前につく。

チャイムを鳴らすと出迎えてくれた。


ドアの外まで裸足のまま飛び出し、私に強く抱き着いてくる。

こんな歓迎されるのは何十年ぶりだろうか。


「ようこそ、新しい家へ。」


その一言が彼女の決意を表していた。


その日はひたすら体を重ね合わせた。

互いのを舐めあったり、かけあったり、しあったり。

おもちゃも使って、ローションも使った。

とにかく愛し合った。


行為が終わるころには朝方になっていた。


「私と結婚してくれますか?」


馬乗りになりながら初恋の人が指輪を差し出してくる。

宝石はパパラチア。

奇麗なオレンジ色だ。

私の好きな色。


「当たり前。」


これでいい。

レズである私を受け入れてくれて、愛してくれるこの人こそが私の幸せだ。


今までのモヤモヤがウソのように消え、世界が明るく輝く瞬間だった。


FIN.

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自分の在り方 ネルシア @rurine

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