第12話 雌伏と雄飛

「報告、報告です!!本国にて解放軍が王宮を襲撃、第四柱セリム様が殉職とのこと!!」


「なっ、何…セリムが……!」


「殺されたのか…?」


「なんと!貴国を代表する七十二柱、それも”六雄”のうち一柱が…!」


隣国・マガダ国との会談中に届けられた、その凶報に。

ある者は口の端を歪め、ある者は目を見開いて驚き。


そして、この女は。


「……そうかい。…で?セリムは、ラーマが殺したのかい?」


「ハッ…いいえ、セリム様殺害の実行犯は、”紅蓮”と”破壊”の二人と報告が。…その、”氷鬼”のラーマは……」


そこまでで言葉を切り、言い淀む伝者の様子を見て、ブソクテンはさらに口角を上げた。


彼女の心中を、知る者は誰もいない。


どうして今、彼女は笑っているのか。

どうして今、裏切ったはずの我が子を気にかけるそぶりを見せるのか。


彼女に永く仕える忠臣、謎に包まれた七十二柱”第一柱”にすら、それらは決して。


「奴は、ブソクテン様が全国から集めた子供たちの施設を襲撃し、非戦闘員を含む全員を殺害したと……!」


その言葉に、思わずマガダ国の大臣たちにもざわめきが起こる中。


ブソクテンの、表情は。


「…クククっ、クククク……最高だよ、ラーマ…あんたは!…アンタが歪んでいく音が聞こえる、この瞬間はねえええ!!」


口の端を大きく歪めて嗤うブソクテンの、そのあまりに禍々しい様子に、その場にいたほとんどがたじろぐ中で。


彼女の背後に控えていた”第一柱”は、静かに口を開いた。


「ブソクテン様。セリムが抜けた穴の後釜と、子供たちの遺族への対応は、いかが致しましょう」


「……そうさねえ、現状でセリムに匹敵する人間がいないから、取り敢えずは空席としておこうかねえ。…あと、遺族は……面倒だから、こっそり殺処分にしようか」


「…ハッ、承知いたしました」


高笑いを続けるブソクテンと、纏った仮面と共に一切を隠す”第一柱”。


こうして、今日もこの世界は回っていく。

ブソクテンという歪んだ狂気、その掌の上で。


そんな腐った世界を壊し、ありのままの姿に戻す。

その役割を担い、自ら血に濡れた反逆者の道を行く者たち。


それが——。




「俺たちは、解放軍だ」


薄い暗がりの中で、椅子に座ったままの男は部下たちに語りかける。


「時には、非常な判断を迫られる時もある。隣にいる仲間に、殺してくれと頼まれることもある。……そんな時、決して躊躇うな。任務を遂行しろ。…もう一度言う。俺たちは、解放軍だ」


目元にドス黒いクマを携えたその青年——21歳になったラーマは、怯む部下たちを尻目になおも続ける。


「私情を挟むな。敵に、情けをかけるな。……あと。俺の部下になった以上、幸せな死に方ができると思うなよ。…これで解散だ。明日に備えろ」


彼の言葉は、全て事実である。


第四柱、”適応” のセリム殺害。

そのビックニュースは現状に不満を持つ人間、国内はもちろん、国外の半コーサラ国勢力にも勢いを与えた。


義勇兵のような形での、宿霊者以外の他国の軍隊も抱え込んだ現在の解放軍の構成員は、なんと3万人以上。

もう、一つの巨大な軍団と言って差し支えない。


彼らはこの3年間、ひたすらに地方都市の解放に徹してきた。


理由はふたつ。


狙いを絞らせないことによる敵陣営の混乱と、戦力の分散配置を誘発することである。


そしてその努力の成果、幾重にもまかれた布石を回収する日が、ついに明日へと迫っていた。


コーサラ国の国門とも言える最重要拠点。

七十二柱”第二柱”と”第三柱”が待ち受ける魔境、セヴァストーポリ要塞。その、攻略開始の日が。




第2章 『セヴァストーポリ攻略』編 開幕








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